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僕は陸翔に、今回は僕の都合がつかないから上京はあきらめてほしいこと、陸翔が受験のときは必ず泊めてやること、何なら空港まで迎えに行くし、受験当日も心配なら志望校まで迷わないように連れていってやることなどを、できるだけ淡々と伝えた。
陸翔は黙って僕の話を聞いていた(無言だったからちょっとドキドキした)。僕が話し終えると、彼はあっさりこう言った。
「うん、わかった。年末の下見は諦める」
「ごめんな。その代わり、受験のときは任せとけ。僕がいろいろサポートするけんね」
「まあ、泊めてくれたら嬉しかけど、そんなに過保護にしてもらわんで大丈夫」
「あ、そう……」
「悔しいけど、年末は湧也にいちゃんと嘉村先生、二人っきりにしてやる」
「……えっ」
「その代わり、俺が大学に受かってそっちにいったら、俺ともデートしてよ」
「ええっ?」
いったい、陸翔は何を言い出すのだろう。僕はびっくりしすぎて言葉が出ない。電話口で陸翔はおかしそうにクスクス笑っている。
「あーあ、年末、邪魔してやろうと思ったのになあ。まあいいや。絶対、第一志望に受かってやるぞって気合い、入った」
「陸翔――」
「湧也にいちゃん、夏にこっちに帰ってきたとき、嘉村先生のところに遊びにいったろう? 嬉しそうに、いそいそと。あのときの湧也にいちゃん、かわいかった。嘉村先生にチャンスがあるなら、俺にもあるやろ?」
「お前、なんの話――」
「何でもない。こっちの話。嘉村先生と楽しんでね。ちょうどクリスマスやん」
陸翔の言葉に、僕は壁にかけたカレンダーを見る。確かに、幹彦くんが延泊するのは12月23日から24日。……クリスマス・イブだ。
「……うん。陸翔、ごめんな」
「謝らんでいいよ。なんか、フラれたみたいで縁起が悪いから」
「あんまり大人をからかうなよ」
「からかってない。俺はわりと本気。じゃあ年明けまた連絡するね」
「う、うん。勉強、がんばれよ」
電話を切ったあとで、ドキドキが追いかけてきた。陸翔のことはずっと子どもだと思ってたけど、いつのまにこんな、大人の駆け引きみたいなことを言うようになったのか。小説や映画なんかに影響されてるのかも知れないな、僕がかつてそうであったように。そんなことをぼんやり思った。
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