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 昼の休憩中、私用のスマートフォンが振動した。ディスプレイを見れば高校時代の友人からだ。旧友と言っても良い彼は、こうして月に何度か近況を尋ね、伝える為に電話を掛けて来る。それにしても昼間の、しかも勤務時間内に掛けて来るのは珍しい。そう思いながら最近機種変更したばかりのスマートフォンのディスプレイをタップした。 「おう」 『お〜今電話してて平気か?』  その声に、もうすぐ休憩終わるから手短になと、返しつつ事務所を出る。三好尚史(みよしなおふみ)の勤める不動産屋は東京の下町にあり、昼時ともなればあちこちの店で昼食用の弁当を売り出していた。斜向かいの中華料理屋の店先で弁当を売るアルバイトの女の子の声が朗々と響く。 『三好ってどの辺の物件紹介出来る?』  突然何だ、と笑って自販機に小銭を入れる。つい最近三人目が生まれた友人に、マイホーム探すならいつでも力になるとは言ったものの、彼は海沿いの郷里の街から出る気は無さそうだった。あの、海と砂浜と多少の娯楽のある中途半端な街。寂れている訳でも無いが、都会と言うには物足りない。学生の頃はそんな郷里を一日も早く出たくてうずうずとしていたが、結局彼のように残る人間も多い。  都内しか無理だぞと言いながらいつも飲んでいる缶コーヒーのボタンを押せば『いや、哲也が来ててよ』と返される。  哲也――東哲也(あずまてつや)。久しぶりに聞く名前と、缶の落ちる重い音が重なった。  都内なら紹介出来るらしいぞ。そう電話口で友人が言う声が聞こえる。大方側にいる哲也と話しているのだろう。微かに低い声が聞こえ久しぶりのその声に、あぁ本当に哲也が近くにいるのだと、三好の睫毛が微かに震えた。 『近い内に三好の店行って良いかだってよ』  哲也との会話を終えた友人が、そう電話口で問う。頷きながら唇を開いた。 「おう、別に構わねぇけど……てか何で哲也本人が連絡してこねぇんだよ」  電話代われよ。そう言うも友人は少し可笑しそうに笑って「それが駄目なんだと」と返した。 「……あ?」 『まぁ、会って話すまで楽しみにしておけって』  彼の言葉の真意は分からないが、もう昼休憩も終わる。じゃあとりあえず俺の連絡先哲也に教えておいてくれ、と返して通話を終わらせた。コーヒー缶のプルタブを引き上げ一口飲む。今日はこの後内見の予約が入っているから急がなければ。  そんな事を考えながら見上げた秋の空は間抜けな程に澄んでいた。
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