染まる紅葉

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 入り口付近の地面には大小の石のようなものがコンクリートで固められ、舗装されている。しかし入り口付近だけであり、その奥に進むと道がなくなって高い木の生えた楓の森が広がる。噂によれば頂上付近に以前家があったけど、住んでいた人全員姿を消したらしい。未だにその小屋は残っている。住むにはボロボロで、適さないが。  私はやっと舗装が止まっているところまで来てみたら、誰かとぶつかってしまった。尻餅をついて、履いていた白のワンピースが汚れる。 「イタタ……」 「あ、お姉さん。大丈夫?」 「平気……」  見上げてぶつかってきた人を眺めると、一人の少年だった。見たこともない顔だし、この村には少子高齢化のせいで子供は一人もいないはず。来るとすれば、面白半分で紅葉巡りに来る少年・少女くらいだ。  自転車に乗っているところを見れば、遠くまで行ってきたに違いない。こんな土壌の上を運転するとは、根性が据わっている。 「あなたも紅葉巡りに来たの?」  ワンピースについた土をはらって立ち上がると、少年は首を傾げて唸り始めた。少し考えている様を表現し、考えが纏まったのかポンと手を叩く。 「紅葉巡りはしてないよ。だって綺麗じゃないもん。僕は奥の場所にある小屋に行ってたんだ」 「綺麗じゃないってどういうこと?とても美しくて幻想的に見えるわ。特に赤色の楓は魅力的よ」 「お姉さんには赤色に見えるの?僕は紫色に見えるもん。空の方が赤いね」 「え……」  少年が余りにも爽やかに微笑んでくるので、背中に冷や汗が流れる。確かに人それぞれで見方は違うとネットで見たことがあるけど、これはいくらなんでも恐怖でしかない。だからといって、それを否定すると人権侵害になるのでしないでおく。 「どういうことかしら?」 「……?よくわかんないな。ちょっと忘れ物したから取りに行こうと思ってね。絶対小屋には行かないでね。部屋に入ったら……」  最初の時は爽やかな表情だったのに、最後の注意事項を喋った時は険しい顔つきになった。中学生とは思えない人相で、まるで怪物を見ているようだ。  少し沈黙という名の間を置き、ごまかすように微笑んでどこかに行ってしまった。どうやら村の方へ行くらしい。  ただ「行かないで」と言われるとどうしても行きたくなるのは、人間の(さが)。私は迷うことなく小屋の方へ向かってしまった。気になってしかたないという欲のせいだ。
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