幸せはあとから感じ入るもの

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幸せはあとから感じ入るもの

 二人のなけなしの貯金をはたききって借りた物件は可愛らしいモスピンクのアパートだった。  たった一組の布団だけから始めた生活。 「引っ越しそばを食べよう!」  意気揚々と騒ぐ彼に私は、 「そば茹でるのに鍋がないよ、てかガス台ないからそもそも……」 「流水麺がある! 麺つゆも買わなきゃね。あ、冷蔵庫ないから使い切りだ」 「それを入れるお皿がないでーす」 「え〜っと。紙コップとザルも一緒に仕入れよう」 「割り箸もねっ」  その後、私達は顔を見合わせ吹き出して笑った。  家電は一気に購入、されどもリボ払い。  その他必要なものを少しづつ増やしていき、(かたち)(づく)った二人の(はこ)部屋(べや)。  またたく間に流れる月日(つきひ)は忙しない幸せを残していくけど、しみじみ実感するのはしばらくたってから分かるもの。  長い年月を経て、家電の買い替えが始まった。  歴史を感じる同居物たちが入れ替わってゆく。  職場の若い子は結婚二年未満、ある日相談された。 「同居から抜け出して彼とアパート入りたいんですが、資金はどれくらい必要ですかね」  私は考えすぎている若い子を前に涼しく答える。 「本気で考えるなら初期費用だけで十分やってけるよ」  何に関しても、足を踏み出さなきゃ分からない世界だらけだからね。  石橋を  叩きすぎて割れたとて  必ず光や道はある  なんちゃって♪ 《おわり》
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