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Prologue 目覚め
目を開けると、キラキラした明るい緑色の瞳が俺を覗き込んでいた。
「おはよう! ザイン」
「……ザイン?」
「そう、君の名前はザインだ。僕はリアム」
「リアム……」
「うん、ザインは賢いね?」
覚えのない名前に混乱していると頭をワシワシと撫でられ、突然のことに思わず手を弾く。
「あ……ごめんね、びっくりするよね」
リアムと名乗ったのは、歳の頃16才程の白人種の人間で、興奮を隠しきれない様子で照れたようにはにかんだ。そして俺の手を取った。すべすべした心地よい細長い指。
リアム? ザイン?
どちらの名前とも聞き覚えがない。
けれども何故だか、この少しひんやりとした指には触れたことがあるような気がした。けれどもこの事態に理解が全く追いつかず、一体何が起こっているのかと考えれば、ぴりりと頭痛が鈍く響く。
「大丈夫?」
「ああ、その、ちょっと頭がズキッとして」
「ごめんね。起きたばかりじゃ混乱するよね?」
「起きた?」
そう言われて、俺に直前の記憶、今何をしていたのか全く思い出せないことに気がついた。確かにここから体を起こした、けれどもその前は。
見渡せば、ここは3メートル四方の白く簡素な部屋だ。俺の下に敷かれた毛糸で編まれたカラフルなラグと、少し離れた床に置かれた水差し、それから長方形の入り口しかない。……どうやら俺はこのラグから体を起こした、ということは今までここで寝ていたんだろうか。この場所にも見覚えがない。
けれども寝ていた、という実感もない。言うなれば突然意識を取り戻したような、気がする。
立ち上がろうとしてジャリと音がした。思わずその音が響いた首すじを撫でれば薄いチョーカーのようなものが巻かれている。身にをつけた覚えはない。というよりアクセサリーを付ける習慣自体がないはずだ。
朧気に見下せば、着ているものは柔らかな綿のパジャマだ。やはり見覚えも着た覚えもない。けれどもパジャマということは、やはりここで寝ていた?
それで俺の服はどこだと思えば、また頭の奥でチリチリと不快な感触がした。
「あの、大丈夫?」
「あ、ああ。それよりここはどこなんだ?」
「ここ? ここは僕の家で、ここはザインの部屋」
「ザイン?」
「ふふ。ザインは君だよ」
歌うような不思議な声だ。けれどもその意味が頭の中に入らない。
「俺が……ザイン?」
「そうだよ。まだ起きたばかりで混乱してるとは思うけど、追い追い説明するね。大丈夫だから」
そう笑うリアムの声はひどく嬉しそうで、喜びに満ちていた。俺が起きたことをこのリアムは喜んでいる。つまり味方、なのだろうか。そう思えば少しは落ち着いてきた。相変わらず頭は霞がかかったように働かないけれど、体に異常はなさそうだ、
「ねぇ、本当に大丈夫? なんだか顔色が悪いよ?」
「その……リアム? なんだか酷く頭が混乱してて」
「うん、それは仕方がないんだよ。ザイン、君は本当に起きたばかりなんだから」
「その起きた? っていうのはどういう意味なんだ? 俺は病気でもしてたのか?」
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