フレンズ・ビヨンド

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 パン食う競争から一か月後におふくろの店がオープンして、それから一週間経った。俺とイスズが通ってる鳳明学園はこの時期、学園祭やることになってて、その準備でふたりともけっこう放課後忙しくなった。 クラスごとに出し物決めて、やるんだけど、俺たちの2年3組はめーどカフェをやることになって、イスズの取り巻きB組(イスズと俺が仲いいのが好きな一派、A組とは仲が悪い)のやつが俺にめーどやれって無理やり押し付けてきた。 俺、もちろんやだって言ったけど、イスズが賛成しちまって、けってーされちまった……。取り巻きA組(イスズが好きな一派、俺は敵)のリーダーみたいな女子渥美ってやつが、めーど服持ってて、俺、男にしてはチビで、渥美と背丈変わらないんで、早速衣装合わせってやつで、着せられた。ロン毛のカツラもかぶせられた。もう、やだ。 「いいじゃん、けっこう似合ってる」  イスズがうれしそうに笑って、俺の肩抱いて、スマホで写メ撮ろうとした。B組の連中がキャーキャー騒いで写メ撮ってる。 「やめろよー、撮るなよー」  必死で抵抗するけど、イスズがカシャカシャ何枚も撮ってうれしそうだ。俺はうれしくない。  A組の連中まで撮り始めた。 「なんで、撮るんだよ」  A組のやつらが、笑ってるイスズを撮ってるんだって、喜んでやってる。男子はドン引きしてるし、俺、こんなカッコで「いらっしゃい、ご主人様」とか言えるかっての! そうしたら、イスズがえらそーにした。 「決まったことだし、ちゃんとやれよ」  イスズめ、ゲンコ食らわしたい。 男子でめーどやるの、俺だけで、後は女子が7人、男子とその他の女子は裏で交代でコーヒーや紅茶、菓子を用意することになった。 毎日放課後、机や椅子の配置とか、飾り付けどうするかとか決めたり、テーブルに敷く布とかコーヒー、紅茶、菓子の買いだしに行ったり、カップや皿(毎年カフェとかやるクラスがあるから、倉庫に何個かしまってあるらしい)出して、洗ったりして、いろいろやることがあった。  前日、教室の中の飾り付けをして準備終了。明日いよいよ……やだなぁ。やだよう。  帰りの車の中でぐすぐすしていたら、イスズがぎゅっと抱き寄せた。 「すっごく、かわいいんだから、泣くなよ」 「嘘付け!」  かわいいわけないじゃん!いい笑いもんじゃん!  ショウゴさんが後の座席を振り返った。 「明日、自分は午後に若頭と一緒に倉橋の事務所に行くので、迎えに行けません。ナオキを寄越しますから、打ち上げとかは出ないでまっすぐ帰ってください」  釘刺された。あー、残念だな、準備とか頑張って、明日うまくいったら、クラスの連中とカラオケとか行こうかって話も出てたんだけど。 「打ち上げ、出たらだめか」  イスズも楽しみにしてたみたいで、あきらめきれない様子だ。 「だめです」  ショウゴさん、厳しい。ちょっとくらいいじゃんか、なあ。  屋敷に着いて、いつものように、夕飯までトレーニングする。最近、カヤが俺に格闘技教えてくれるようになって、それがけっこう厳しい。無駄な動きが多いとか、足さばきがなってないとか。めちゃダメ出しされてる。イスズのボデーガードなんだから、カヤを倒すくらいにならないといけないってショウゴさんに言われた。今んところ、到底無理だ。かすりもしねぇ。でも、頑張る。頑張らないといけない。 そんで、食堂で、夕飯食べた後は、イスズと風呂入る。 イスズとは、まだ、キスしていない。サンスケしあってるのに、なんか、キスは、お互い照れくさいっていうか。うーん、俺、したいな。 そんなこと思って、布団の中でもぞもぞしたりしてるうちにいつの間にか寝てる。ここんとこ、そんな毎日だった. 翌朝、いつもより早く学校に行き、カフェの準備をした。10時になったら、開店、今日は親とか他校の連中とかも来て、それは賑やかになるって話だった。前の学校でも学園祭はあったけど、クラブの発表会みたいな感じで、クラスで出し物とかはやってなかった。 A組の渥美が俺の背中のファスナーを上げながら、ものくそ怖い顔をした。 「いい?このメイド服、他の女子が着ているような仮装用じゃなくて、ちゃんとしたオーダーメイドなんだから、汚したりしたら承知しないからね、気をつけてよ!」 そんなに大切だったら、着せるなよ。靴はなんとか踵が低い黒い靴にしてもらった。最初踵高いやつ履かせようとしたから、それは必死で抵抗した。だって、そんなんじゃ、歩けるわけないじゃん。 最後にロン毛に白い布(へっどどれすとかいうやつらしい)がついたカツラをかぶせられ、口紅やら睫毛やらつけられて、出来上がった……。 「できたか?」 イスズがカーテンを掻き分けて入ってきた。出来上がった俺を見て、眼を丸くした。 「やぱい、かわいい」 めちゃ喜んでる。また、俺の肩抱いて、また写メ……。もう、好きにしろ。 「ほら、膝揃える!がに股しない!」 渥美のやつ、ピシッと膝叩いた。うう、痛い。 開店前にクラス全員で揃って、写メ撮った。後で、LINEで送ってくれるって。確かに恥ずかしいんだけど、なんか、クラスみんなで協力して、こういうことやるのって、いいなって思った。前の学校では喧嘩ばかりしていて、授業はサボってて、ロクにクラスの連中と話したりもしなかったしな。なによりイスズが楽しそうなのがよかった。 校内放送でファンファーレが鳴った。 『只今より、第21回鳳明学園学園祭を開催いたします!』 各教室から一斉に拍手が起こった。さあ、始まりだ。 早速、別の学年やら他のクラスやらの連中が廊下をうろつき始めた。いろいろな出し物があるので、どこに入ろうかと迷っているようだった。入口で俺が 「いらっしゃい、ご主人様!」  って、ラーメン屋や居酒屋みたいに威勢よく言うと、ビックリしてから大爆笑。でも、面白がって入ってくれる。まあ、大成功だよな、たぶん。 中ではめーど服(仮装用)の女子たちが、コーヒーやら紅茶やら菓子やらを出してる。 俺はひたすら、客寄せパンダだ。 昼ちょい過ぎになって、さすがに疲れてきた。目の前を遮った影があったので、頭を下げて、例のご挨拶をかます。 「いらっしゃい、ご主人様!」  すると、なんか聞いたことのあるような声がした。 「ハル?!その恰好!?」 「マジかよ!?」  ハッと顔を上げると、知った顔が泣きながら笑ってた。 「カヤ……ナオキ……」  ふたりがやだ、よせって言う俺の両脇にひっついて、やっぱり写メ撮り始めた。カヤが調子に乗った。  「これ、ショウゴさんに見せたら、どんな顔するかな!?」  カヤ、覚えてろよ、そんなことやったら、ただじゃすませねぇ。と言おうとしたとき、イスズが出てきた。  「なんだ、おまえたち、もう来てたのか」   ふたりでショウゴさんの代わりに迎えに来たんだろうけど、まだ昼ちょっと過ぎくらいじゃん。早すぎだよ。イスズが、夕方までどこかで時間潰せって言って、俺の手を引っ張った。 「休憩貰ったから、他のクラスの出し物見に行こう」  やっと休めるか。腹減ってたんで、3階にある、3年のクラスがやってた屋台で焼きそば食って、ジュース飲んだ。焼そば、けっこううまかった。やっぱ、このカッコのままだと、あちこちでクスクス笑われる。まあ、もうカヤとナオキに見られちまったし、いいや。 食べた後、縁日みたいなヨーヨー釣りとかやってる2年の他のクラスへ行こうとしたら、イスズが体育館に行くって言いだした。 「えっ、行くのか……」  体育館には、1年全クラスが合同でホラーハウス?っての、やってて、行ってきたクラスのやつが、面白かったって言ってたけど……俺、行きたくない。 「別の、見に行こうぜ」  くるっと身体回して、違う階に向かおうとしたけど、イスズ、ぎゅっと手を掴んで離さねぇの。 「絶対面白いって、行こう」  いやだと言う俺に、イスズがちょっと意地悪そうな顔した。 「もしかして……怖いのか?」 「こ、怖くなんか、ないっ!」  じゃあ行こうってもう引きずるように連れてかれた。ほんとは……ガキの頃におふくろと遊園地のお化け屋敷に行って、途中で迷子になって、怖い目に会って……それから苦手なんだ、お化けとかホラーとか。意地張ったけど、後悔し始めた。  体育館いっぱい使った気合入った出し物で、1年の先公たちも手伝ったらしい。毎年1年合同で体育館使って、迷路やお化け屋敷なんかの大がかりな出し物をやるのがでんとーなんだと。迷路だったらよかったのに。  入口に、顔真っ白にして、口から血が出ていて、長い真っ赤な爪で、ミニスカートの看護婦の仮装した女子が何人もいて、脅かしてくる!それからしてもう怖いよ!  イスズの袖をぎゅうっと掴んだ。イスズがふって笑って、俺のその手を握った。 「大丈夫、俺が一緒だし」  怖がってるの、わかちまったんだな。なんか、情けねーよ。 「はーい、携帯電源切って入ってねーライト付けないでねー」  工作した大きな鎌を持った死神扮装の先公が間の抜けた声出してた。ポケットのスマホの電源切った。縮こまった恰好でイスズの腕にすがりながら入っていく。中は真っ暗だ。入っていきなり、ぼおおっと白い影がゆらゆら見えた。全身包帯のミイラ?!がうううーって唸りながら、襲い掛かってくる! 「わあっ!」  思わずイスズに抱き付いた。イスズが嬉しそうにしてる。 「大丈夫だって、面白いだろ?」  足元がぐらっと揺れて、がくっと身体が揺れた。 「おっと!」  イスズもバランス崩してふたりして抱き合った。 「足元気を付けよう」 ゆっくりと足を進めていくと、右から急に手が伸びてきた。骨!?骸骨!?触ってきたりはしないけど、驚くよ! 突き当りのテーブルの上にある髑髏がカタカタ笑っている。床に矢印が光って見えた。右を指してる。 「蛍光塗料か、こっちに進むんだな」 俺はもうイスズに抱き付いたまま、眼をつぶって進んでいた。あちこちでキャーとかわあーとか悲鳴が聞こえてくる。先に行った連中だ。この先もっと怖い仕掛けがあるんか。もうやだよう。 「なんか、箱があるぞ」  イスズに言われて、ちょっとだけ目を開けた。長細い黒い箱があって、蓋らしいところに十字架描いてある。ガタッて音がして、蓋が急に開いた。 「オオオオオー!」  真っ青な顔で黒いマントのやつが飛び出てきた! 「ぎゃーあ!」  俺、ビックリして、後ろにひっくり返った。壁にぶつかって、壁、押し倒して、尻もちついた。 「おい!ハル!大丈夫か!?」  イスズの声がしたけど、どこにいるのか、暗くて見えない。 「イスズ!どこだよ!」  なんとか起き上がって、手探りでイスズを探したけど、俺を呼ぶイスズの声が遠くなってく。 「イスズ!」  壁壊しちまったみたいで、脅かし役の1年が慌てて、壁を立ててる。 「ごめん!ごめんな!」  何とか立てられたけど、イスズといた通路との仕切りだったみたいで、元のところに戻れなくなった。 「出口……」  壁を伝って進もうとしたけど、暗くて、怖い。 「ハル!」  イスズの声が聞こえてきたけど、どんどん遠くになってくみたいだ。困っていると、さっき壁直してた1年が声掛けてきた。 「ここからなら、外にでられますよ」  黒い幕を捲ってくれた。礼もそこそこに外に出た。入ったところからはけっこう離れてるけど、出口じゃないみたいだ。  体育館の外回って出口でイスズを待とうとしたとき、ファンファーレが鳴った。迷子やら落とし物やらの放送かと思っていると、スピーカーから怒鳴り声が聞こえてきた。 『おい!東城、狂犬!聞こえてるか!?』  えっ!?あの声、岡田!? 『この間はよくもアニキや組に恥かかせてくれたな!ああっ!?』 「なに、どうしたの?!」「誰だ!?勝手に放送して!」  ホラーハウスの中や外側にいた先公や生徒たちが騒ぎ出した。 『落とし前つけてもらおうか!おまえたちふたりに賞金掛けた。一人百万だ、欲しいって連中大勢連れてきた、ぼこぼこにされちまえ!』  なんだって、岡田のやつが仕返しに来たって!?学園祭やってんのに、ぶち壊しじゃんか! めーど服のポケットからスマホ出して、電源入れた。すぐにイスズからLINEの電話が来た。 『ハル、おまえ、どこにいる!?』 『えっと、バスケのゴールの下んとこ』 『そこ、動くなよ、今行くから』 『いや、俺がおまえのとこ、行く!』  あいつの右側守らなきゃ!でも、イスズ、返事しないで通話切っちまった。 「キャー!?」「なんだ、君たちは!?」 「東城と狂犬、どこだ!?」「ここらにいるって話だぞ!」  何人も体育館に入ってきたらしく、先公たちともめてる声がした。やばい、先公やほかの生徒が殴られたりしたら。  声のする方に走っていく。ああ、めーど服のスカートがビラビラして邪魔くせー!  案の定、先公のひとりが首根っこ掴まれて、今にも殴られそうだった。看護婦の仮装の女子は固まって震えてる。その前に飛び出した。 「おい、俺はここだ、他のやつらに手出すな!」  いかにも半グレって感じの三人がこっちを向いて、吹き出した。ひとりは岡田と一緒に俺とリツをいたぶったやつだった。また、つるむなんて、凝りてねーな。 「な、なんだあ、そのかっこはよ!」「狂犬が女装してやがる、うける!」  ゲラゲラ笑いながらも、手にしたパイプやバットを振り回して、駆け寄ってくる。 「百万は俺のもんだ!」「いや、俺のもんだ!」  振り落ろしてきたパイプを避けて、そいつの懐に飛び込む。隙だらけだ、握った拳でぐにゅと腹からみぞおちにかけて叩きつけた。 「ぐはっ!?」  すかさず足元すくって、ぶったおす。パイプはカランと音立てて転がった。バットはさっと拾ったパイプで受け止めて、そいつの鼻っ柱に拳を食らわす。 「げっ!?」  鼻を押さえて、後ずさるのを、ガンガン拳を顔面に叩きつける。三人目が横からゲンコを突き出してきた。脚を振り上げて、その腹に回し蹴りをかます。パイプを放り投げて、よろけた三人目の腹に両の拳を何発もねじ込んだ。ばたっと倒れたやつの襟をつかんで立たせようとしたとき、後ろに大きな影が立った。 「チビ、コンドハマケネェ」  振り返ると、パン食う競争でぶっ倒したマッスルタワージョファンってやつが見下ろしていた。 「こいつもきたんか」  ブンブンと腕を振り回し、近寄ってきた。 「チビ、ツカマエル!」  大きな手を広げて、掴もうとしてきた。こいつ相手じゃ、めーど服のままだと、やれない。逃げてどっかで服脱ごう!  背を向けて走り出し、ホラーハウスの中に入った。もう、怖いって言ってらんない! ジョファンも追っかけて、来てるみたいで、壁をなぎ倒して俺を探している。 「ドコダ、チビ!」  黒い幕も引きちぎられて、もうめちゃくちゃだ。くそぅ!  足止めて、振り返った。 「このまま、いくぜ!」  突進してくるジョファンの顎目掛けて、飛び上がりながら、下からアッパーカット!  がつっつと決まるが、足が止まっただけで、揺るがない。左脚にしがみついて、押し倒そうとした。 「ハナセ!」  もう片方の足で蹴ろうとしてきた。しめた、思った通り、バランス崩して、後ろにぶっ倒れた。馬乗りになって、顔に拳を連打する。その拳を受け止めて、ぐぐっと押し戻してきた。  勢いつけて、俺を跳ね飛ばした。少し後退して体勢整えようとしたとき、後ろに誰かが立った。 「はっ!?」  たぶんパイプかバットだ、がっつと殴られて、ふらっとしたところを、ジョファンの拳が俺の頬にめり込んだ。 「ぐはっぁ!?」  いってー!ジョファンは腹や胸を叩き込んできて、ちょっとふらふら、踏ん張れずにいたら、床に押し倒して、スカート捲ってきやがった。 「チビ、オカス」  舌なめずりして、やらしい顔を近づけてきた。ほんと、こいつ変態だ! 「やめろ!」  口に溜まってた血唾をジョファンの顔に吹きつけた。 「グガッ!?」  目に入った血唾を拭おうとして俺を押さえていた手を緩めた。その隙に逃れて、俺を殴ったやつに膝蹴りして倒して、スカート摘まみながら走った。  渥美、ごめん、めーど服汚れちまったよ!べんしょーするから!勘弁してくれよ!  あ、渥美、放送室にいるんじゃ。放送部員で、迷子やら落とし物やらの放送してた。岡田に脅されたにちがいない。さっきの女子たちみたいに怖くて震えてるかも。助けに行かなきゃ。  ポケットのスマホが鳴っているのに気づいた。走りながら、LINEの電話に出た。 『ハル!体育準備室にいる!』  イスズだ。体育準備室は体育館出たところにある。体育館から出られるのか俺。 『ちょっと無理かも!ジョファンが追ってきてる!』 ジョファンが喚きながら追ってきてる。走った先はステージの方だった。出口じゃねえ。  ステージのところに追い詰められた。突進してくるのを、避ける。ジョファンって俺よりバカだよな、そのままステージの檀のところにぶつかった。 「オイ、ヨケルナ!」  俺はステージに手かけて、よじ登って、ジョファンの頭を思い切り蹴り飛ばした。 「ガアァ?!」  ジョファンがよろよろ後ずさる。ステージの脇から声がした。 「おい、あれが狂犬だってよ!」「やっちまえ!」  ステージの脇から出てきた連中が飛び掛かってくる。ジョファンはステージに上ろうとして、できなくて、上がれるとこ、探し出した。  飛び掛かってきた連中を次々ぶん殴っていく。動きおせー。まるで棒みたいにぶっ倒れていく。ジョファン以外は大したことないのか。そのとき、ステージの上にひらっと身軽く上がって来たやつがいた。 「へえ、強いんじゃん、メイドさん」  ロン毛を後ろで縛って、革ジャン着て、細身でひょろっとしているけど、刃物みたいな尖った感じがした。こいつは危険なやつだ。素早く駆け寄ってきて、左の拳を俺の腹に叩きつけてきた。パンチ早くて避けられなかった。 「ぐぅ!?」  重い!重いパンチだ!二発目くらったらやばい!  もう一発右から来た拳を思わず腕で受け止めてた。右は少しスピード落ちる。左利きか。こっちも拳を顔目掛けて繰り出す。すっと避けられた。フットワーク軽い。ボクシングかなんか、とにかく格闘技やってるみたいだ。構わずビュッビュッと拳を繰り出す。どっかで当たれ!  でも、軽く避けられて、二発目が胸の上の方に当たった。 「うわあっ!」  いてー、また脱臼!?骨折れたか!?  後ろにぶっ倒れちまった。頭床にぶつけて、くらくらする。すぐに起き上がれない。そいつが俺の頭の方に来て、両腕を床に貼り付けるようにした。脚ばたつかせて、腰を捻って振り払おうとしたけど、できないでいると、横の階段から上がって来たジョファンが俺の両脚抱えて、身体を突っ込んできた。 「よせ、やめろ!」  革ジャン野郎がくくっつと笑った。 「いい様だ、おい、おまえ」  倒れていたやつに声掛けた。 「今から面白いショーやるから、動画撮れ」  ジョファンがベルト緩めて出してきやがった!うえー、どす黒くてえぐい! 「チビ、ヤル!」  スカート捲り上げられて、ブリーフ脱がそうとした。ほんとにヤルのか!?嘘だろ!?まだ、イスズとキスもしてないのに!こんなやつに!? 「くそっ!」  思いっ切り脚をバタつかせて、抵抗した。くそ、どけ、どけったらー!イスズ以外とはいやだー!! その時、ブンって音がして、誰かがジョファンの頭を蹴り飛ばした。ジョファンがぐらっと身体を揺らすと、続けざまに蹴りが入り、吹っ飛ばした。イスズがめちゃ怖い顔して、ジョファンの顔や脇腹を何度も蹴り上げていた。股間も蹴ってる!あれはいてーぞ! 最後に顔目掛けてゲンコ食らわした。ジョファンは下半身出したまま、のびた。  俺の腕を押さえていた革ジャンにも後ろから拳が飛んできた。革ジャンは、俺を離して、転がって、拳を避けて、立ち上がった。 「やるねぇ、僕の拳避けるなんて」  カヤが、俺の腕を持ち上げて立たせてくれた。イスズが駆けよってきて、ぎゅうっと抱きしめてきた。 「ハル、大丈夫か!?」  すげー心配してて、泣きそうな顔で頭撫でてる。ブリーフ引き上げて穿いた。 「やばかった」  ジョファンはもう立ち上がれないようだけど、革ジャン野郎は俺とイスズの方に向かってきた。 「ふたりやれば、二百万だ!」  すっげ、早いパンチ、パッと分かれて、その拳を避ける。でも、俺はまだふらついてて、避け切れないと思ったら、カヤがその拳を握って止めてた。 「あんたの相手は僕だよ」  そう言って、俺たちに手を振った。 「早く、岡田、やってきて」  イスズが俺を抱きかかえるようにして走り出した。俺はよろけながら付いていく。 「頼んだぞ、カヤ!」  イスズが言うと、りょーかい!なんて、のんびり応えて、革ジャン野郎とやり始めたのをちらっと見て、ステージ横の階段から降りて、体育館を出た。 「カヤが校内の防犯カメラの画像ハックして、連中が20人くらい入ってきたのが確認できた。半分くらいは倒したけど、すぐに追ってくるかもしれない」 「そんなに、来てるんか!?」  倒しきれるのか。 「放送室の岡田を締めよう。どうせ金目当ての連中だから、岡田がやられたと知ったら、逃げるだろう」  その時、非常ベルが鳴った。 『非常事態です!速やかに校内から退避してください!』  女の先公の声が聞こえてきた。放送室は岡田に占拠されてる。どっから? 「職員室から放送してるんだ」  イスズが回りを見回した。生徒や父兄、他校のやつらたちが、一斉に出口に向かって走っている。悲鳴上げたり、転んだり、小さい子どももいて、もうパニックだ。その間を通って、放送室に行こうとしたけど、ヒトが押し寄せて来て、前に進めない。一旦、途中の教室に入って、避難が終わるのを待とうってことにした。飛び込んだ教室は、1年の教室で、1年は教室での出し物がないから、机がキレイに並んでる。 「どうしよ、こんなことになって」  俺はちょっとおろおろしちまった。学校巻き込んでこんなことになって、先公やクラスメートたちに申し訳ない。せっかくの学園祭もめちゃくちゃだ。泣けてきた。 「泣かなくていい、岡田が悪いんだ、俺やおまえのせいじゃない」  イスズはそういうけど、俺たちがいなきゃ、こんなことにはなってないし。  イスズのスマホが鳴った。すぐに出て話始めた。 「ああ、カヤから連絡行ったか、岡田のやつ、とんでもないことしでかした。これから締めに行くけど、非常ベル鳴ったし、父兄も来てたから、消防や警察(ポリ)来ると思う」  相手はショウゴさんか? 「わかった。死なない程度に締めとく」  相手はやっぱりショウゴさんだった。これからこっちに来るらしい。 「知り合いの刑事にナシつけて、大ごとにならないようにするそうだから、こっちは思い切り、暴れてやろう」  警察と知り合いってショウゴさん、すげーな。イスズとふたりで全員病院送りにしてやろうって拳を握り合った。  廊下が少し静かになった。そっと戸を開けて見てみると、誰もいなくて、出口とは反対の方から怒鳴り声がした。 「どこ行きやがった!?」「どっかに隠れたのか!?」  何人かわからないけど、騒いでる。俺たちを探してるんだ。ピシピシ教室の戸を開けて覗き込んでいる。廊下だと狭くてやりにくい。飛び込んだ教室で待ち構える。 「いたぞ!」「こっちだ!」  どどっと5、6人入って来た。俺たちは机の上に上がって、向かってくるやつらに蹴り入れて倒していく。机の上に上がって来たやつには拳をガンガン腹や胸に叩きつけると、ひっくり返って、机や椅子が倒れた上に落ちていく。イスズもジャブかまして倒していたけど、ひとり、ポケットからナイフ出してきた。シュンシュンて回転させて、開くやつだ。イスズが険しい目で見ている。 「バタフライか、扱えるのか」  相手が動く前にイスズが机を蹴って飛んで、左脚でそいつの手を蹴ろうとした。そいつがさっと動いて、蹴りを逃れた。イスズが床に降りて、また、机に飛び上がった。 「ハル、気をつけろ!」  ナイフもったやつとパイプもったやつが同時に俺に飛び掛かってきた。机と机の間に降り、椅子を持ち上げて。ナイフとパイプを受け止めた。ガチッツて音がして、ナイフとパイプが椅子の足に当たったとき、振り上げた。パイプは吹っ飛んでいったけど、ナイフは飛んでいかなかった。俺の頭目掛けて振り下ろしてきた。 「ハル!」  イスズが椅子でそいつの頭を殴りつけた。そいつは、ショックでナイフを落として、頭抱えて、机から落ちた。パイプのやつはイスズに顔面パンチ食らって、ひっくり返ってた。 「出るぞ!」  入って来た連中はあちこちに倒れ込んでて、その間を抜けて、廊下へ出た。2階への階段を登ろうとしたとき、奥の職員室から大きな音がした。悲鳴も聞こえてくる。 「先公たち!?」  職員室に向かうと、戸は開いていて、担任の浦部と英語の女の先公、ふたりが半グレふたりに詰め寄られてた。 「あ、東城君、比嘉君、早く逃げなさい!」  浦部が叫んだ。えっ?逃げろって。
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