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「君たち、やめなさい!」
半グレのひとりを押さえようとした。
「うっせー!」
押さえようとした手を叩きはらって、浦部を殴ろうとした。俺は、その、そいつの手を掴んだ。
「先生たちに手出すな!俺たちが相手だろ!」
顎に拳を叩き込んだ。よろけて椅子の上に倒れた。もうひとりはイスズが蹴り入れてた。
「先生たちも避難しろ!後は任せてくれ!」
イスズが言うと、先公たち、戸惑ってたけど、駆け足で出て行った。
なんか、かばってくれたなんて、不思議な感じがした。そういう先公もいるんだなって、ちょっとジーンとした。
「浦部さ、いい先公だな」
「そうだな」
イスズも頷いた。
イスズが職員室の放送マイクにスイッチ入れた。
「校内の半グレ共、よく聞け!俺たちは逃げも隠れもしない!これから3階の放送室に向かう!病院送りになりたいやつは、掛かってこい!相手してやる!」
すうーっと息吸い込んだ。
「岡田!よくも学園祭をめちゃくちゃにしてくれたな!こっちこそ落とし前つけさせるからな!覚悟しろ!」
マイクのスイッチ切って、職員室飛び出した。
階段駆け登って2階に行くと、バラバラって連中が寄って来た。廊下は狭くて動きにくいから、すかさず、戸を開けて、中に入る。調理室だ。連中も入ってくる。ナイフ持ったやつもいた。俺は手近にあったフライパンを両手に持って、イスズの右側に付いた。イスズがクスクス笑った。キンチョー感ないな、俺たち。
「くそっつ!死ねや!」
ふたりばかり、ナイフ振りかざしてかかってくる。それをフライパンで受け止めた。カンカン、音がして、弾いた。調理台の下から包丁出してきたやつもいて、あぶねー!椅子を踏み台に調理台の上に飛び乗って、上からフライパンでやつらの頭をガンガン叩いた。
「うわあっ!」「いっつ!」
イスズも上がってきて、回し蹴りで腕を蹴って、ナイフを落としてる。調理台に上がって来たやつがいて、少し離れちまったイスズの右側から飛び掛かっていく。
「イスズ、あぶねー!」
そいつの横っ面をフライパンで思いっきり叩いた。
「ぐはっ!?」
倒れたやつの顔面をガンガン叩く。のびた。
「ハル、危ない!」
イスズの声がして、振り向くと、包丁が腕をかすめた。袖が切れて、血が滲んできた。
「いてっ……」
フライパン落として腕を押さえた。別のやつの拳が俺の顔面を叩いた。
「ぐっぅ!?」
なんとか倒れないでいたけど、けっこうきいた。膝付いちまった。膝蹴りで顎砕かれる。ひっくり返った。
「ハル!?」
イスズもいっぺんに掛かられて、ナイフ避けるだけで精一杯だ。
包丁が振り下ろされてきた。ごろっと転がって調理台から落ちた。キンって音がして、包丁は調理台に当たった。血唾を吐き捨てて、落ちていたフライパンを握った。
「こんちくしょー!」
調理台の上にいたふたりの膝をフライパンで殴りまくって、膝付かせて、顔面に叩きつけた。イスズの方に向かう。ナイフでイスズを刺そうとしてたやつの頭を後ろから、フライパン攻撃して、別のやつが少し怯んだところ、額に頭突き食らわした。ふたりやられたのを見て、ヤケクソなのか、イスズにナイフ向けてたやつが叫びながら向かってきた。
「うおおおーつ!!」
そのナイフの先を避けて、イスズの拳が相手の頬にめり込んだ。その一発でそいつはがくっと膝付いて座り込んだ。
「腕大丈夫か」
袖捲ると、けっこう切れてて、血が出てた。イスズがスカート捲って、白くてヒラヒラしたところを裂いて、巻き付けてくれた。
「3階へ急ごう」
調理室出て、また階段登り出す。後ろから何人か追っかけてくる。ちょっとへたってきた。身体がぐらっとして、階段踏み外した。
「アッ?」
後ろ向きに、追っかけてきたやつらの上に倒れ込んだ。
「わああ!?」
どどっと将棋倒し?みたいに倒れていく。
「大丈夫か、ハル!」
イスズが駆け降りてきて、俺の手を握って、引っ張って立たせた。頭くらくらする。倒れた連中を踏み越えて、3階を目指す。倒れたやつらも起き上がって、追って来た。
3階にも待ち構えてるやつらがいて、けっこうな人数だ。3階から降りてきたやつがチェーン振り回してきた。避けようとして、壁にぶつかった。チェーンが壁に当たって、抉られた。ぶつかったらやばい。イスズがそいつの足を抱えるようにして、押し倒した。俺がチェーン持ってる手を踏みつけると、手から離したんで、足で思いっきり遠くに蹴り飛ばした。
狭い廊下で5人も6人も重なって、向かってくる。もうめちゃくちゃ近くで殴り合いになった。階段から上がってくるやつは、蹴っ飛ばして、下に落とした。俺もイスズも何発か食らったが、こっちのパンチの方が効いてる。相手がよろけだした。放送室はもう少しだ。
下の方から悲鳴が聞こえてくる。誰かやられたのか!?
降りようとしたら、踊り場にひょいっと現れたやつがいた。
「カヤ!?」
下を見降ろすと、足や腕が変な方向に折れ曲がったやつらが折り重なって呻いてた。カヤが、すげースピードで駆け上がってきて、ひとり、ぶん殴った。一発で伸した。かかってくるやつの腕を捩じり上げて、なんなく折った。
「ぎゃーあ!」
折られたやつが悲鳴上げる。それを見て、何人か怖気づいて、逃げ出した。
「カヤ、つえーな」
俺も戸倉の腕折ったりしたけど、あれは相手が弱いやつだったからできたんで、やり合いながら折るのは簡単じゃない。
三人で後に残ったやつらをぶったおした。倒れた連中ももう起き上がれない。
「俺とハルだけでやれたのに」
イスズがむくれると、カヤが笑って手を振った。
「ごめん、ごめん、余計なことしちゃったね」
いや、助かったぞ。あのままだったらやばかったぞ。なんとか立ってるけど、俺、もうふらふらだし。
「この奥だね、放送室」
カヤが廊下の奥を差した。奥にも階段があって、さっき逃げ出した連中はそっから下へ降りたんだろう。
外が騒がしくなってる。窓から見ると、消防車や救急車が何台も来ていて、パトカーもいた。校庭には校舎から避難した生徒や父兄、先公たちが集まっていて、校舎の方を見上げている。体育館の方から、倒したやつらが担架に乗せられて救急車に運ばれていく。校長とショウゴさん、あとたぶん刑事か、三人で話しているのが見えた。
「放送室って施錠できるみたいだから、中から鍵掛けてると思うよ」
カヤが、校内の見取り図見たって。どうやって突入するか。
「確か、防音か何かで分厚い扉だったよな、蹴破るってわけにはいかないな」
イスズが目を細めて放送室の方を睨んだ。
「隣の教室から入れば?」
カヤがニコッと笑った。
で、俺とイスズが天井裏の配管とかが通ってるせまっくるしいところを腹ばいになって進むことになった。放送室の隣の教室で、机組み上げて、天井にある点検口?を開けて、入った。天井裏なんて初めてだけど、配管たくさん通ってて、埃っぽくて、ちょっとベトベトするところもあって、気持ち悪ぃよ。くしゃみ出そうなの、押さえて、放送室の上の点検口の上に着いた。そっと開けてふたりで覗き込んだ。
岡田がうろうろと歩き回っていて、隅の方に渥美、女子がもうひとり、男子がふたりの4人が固まってた。かわいそうにみんな泣きながら震えてる。岡田が怒鳴った。
「うっせー!静かにしろ!」
4人ともびくっとして堪えてる。岡田はイライラしてる。
「くそ、なんで誰もでねーんだ!」
スマホで誰かに掛けまくってる感じだ。マイクのスイッチ入れた。
「おい、早く東城と狂犬、ボコって連れてこい!早くしろ!」
LINE電話の着信音が鳴った。
「どうした、あいつら、やったのか?」
顔色が変わった。
「降りるって、どういうことだ?!金欲しくないのか!?」
切れたみたいだ。外の様子にも気づいたようで、窓に寄った。真っ青になって、電話かけ始めた。
「アニキ、助けてくれよ、みんなやられちまったみたいで、ポリも来てる。俺、捕まっちまうよ」
目が真っ赤になっていく。
「そんな、頼むよ、助けてくれよ」
慌てて別のやつにかけてる。
「オヤジ、出てくれよ」
父親の組長にかけてるんだな。なかなか出ないみたいだ。
「あ、オヤジ、今ちょっと困って……アニキから聞いた?な、アニキや組の仕返ししたかったんだ、落とし前つけようと思って……待ってくれ、助けてくれよ、また弁護士先生に……オヤジ!」
切られたみたいだ。見放されたな。
窓に寄ってるうちにと、点検口の蓋を開けて、放送装置のあるところに飛び降りた。
「えっ!?」
慌てた岡田が振り向いて、腰に挟んでたものを出してきた。
「拳銃!?」
そんなものまで!?俺は思わずイスズを突き飛ばして、岡田の前に立った。
「おまえがボコりたいのは、俺だろ!?相手してやるから素手で来いよ!」
だけど、岡田は震えながら俺に拳銃向けてきた。
「もうおしまいだ、アニキにもオヤジにも見捨てられちまった。だけど、てめえには思い知らせてやる!」
どうせ撃つ度胸なんてあるはずない。
「どうした!撃つなら撃てよ!」
挑発しちまった。パンッて音がして、同時に岡田が床に倒れた。俺、撃たれた?なんか、脚が。
イスズが倒れた岡田に馬乗りになってぶん殴ってる。拳銃は手から離れて、転がってた。
「もう俺たちに仕返ししようなんて思うな!いいか、今度したら命ないぞ!」
イスズがめちゃ怒って脅してる。こえーよ。
「わかった、わかったから、もうやめてくれ!」
泣きながら謝る岡田にも止めずにガツガツ殴って、ついに、ぴくぴくッてなって岡田はのびた。
「ハル、大丈夫か!?」
イスズが俺に駆け寄ってきた。立ってられなくて、腰抜けた。全身刃物が刺さったみたいに、痛くなってきた。左脚から血が流れてく。でも、渥美たちが心配で、声掛けた。
「渥美たち、怪我ないか」
隅で固まってた渥美たちがよろよろと寄って来た。
「わたしたちは、大丈夫よ、あんたのほうが大丈夫じゃないじゃない……」
渥美が、ワンワン泣き出した。もうひとりの女子も一緒に泣き出した。扉が叩かれて、カヤが叫んでる。
「若、ハル!」
男子のひとりが扉の鍵開けた。カヤが入ってきて、状況をショウゴさんに電話してる。
なんか、痛くて、寒くて、震えてきた。骨折ったときより、痛い。ぐぐっと堪えたけど、涙がどんどん出てくる。血もでてくる。くらくらして目閉じたら、イスズが脚押さえながら、必死に俺を呼んだ。
「ハル、しっかり!もう大丈夫だ!」
すぐに消防が担架もって、やって来た。
救急車に乗せられて、イスズもついてきた。
「足でよかった……」
うん、ちょっとケーソツってやつだった。岡田に拳銃撃つ度胸あったとは思わなかった。
おじいちゃん先生の病院に連れてかれて、麻酔されて、手術することになった。弾はどっか、後ろの方まで行ったらしくて、身体には残ってないってことだった。
「イスズ、渥美に謝っておいてくれよ、めーど服ボロボロにしちまった、べんしょーするからって」
「わかった」
イスズが俺の手をぎゅって握って、手術しにいく俺を心配そうな顔で見送ってた。
あー、また入院だ。おふくろ、めちゃ怒るだろうなぁ。目開けたら白い天井、横見たら、イスズがベッドの縁に顔伏せて寝てた。
「イスズ……」
ちょんと肩を突いた。目覚まして、顔を上げた。
「ハル……」
おっきな絆創膏貼ってある俺の頬っぺたに手を伸ばしてきた。心配そうな顔のイスズの額や頬っぺたにも絆創膏。また、お揃いってB組に喜ばれるのかな。
「学校、どうなったん?」
教室も調理室もめちゃくちゃになったよな。学園祭も中止だし、みんながっかりしてるよな。
おじいちゃん先生がやってきて、しばらく歩けないし、喧嘩はなしって言われた。言われなくても、とーぶんしないと思う。
また、ベッドに寝たままで警察のじじょーちょーしゅー受けた。岡田が集めた連中の中に肥前組の下っ端が入っていたらしく、ナイフや拳銃まで出してきたから、けっこう大ごとになったみたいだ。俺たちはせーとーぼーえーでお咎めなし。カヤはちょっと注意されたらしい。まあ、ポキポキ骨折りまくってたから、やりすぎだって。あ、ナオキはカヤのノートパソコン入ったバッグを守るために体育準備室に籠ってたとかで、ひとりくらい倒せってイスズが怒ったって。ちょっとズルだな、ナオキのやつ。
岡田は怪我が治ってから、警察に捕まって、かんきんざいやらじゅうとーほーいはんやら、いろいろ罪になって、当分出てこれないだろうって話だ。もう、俺たちに仕返そうなんて思わないだろうけど。
おふくろ、やっぱり泣いて怒った。心配ばかりかけてごめんて謝るとまた泣いた。
目が覚めた次の日、若頭が見舞いに来てくれて、ビックリした。起き上がろうとしたら、そのままでって言ってくれて、キョーシュクってのした。
「おまえが身体張ってくれたおかげで、イスズも無事だったし、肥前組締める口実もできた。シマ荒らししないよう、ナシつけたから、当分は安泰だ」
最初は岡田が勝手にやったことってしらばっくれてたけど、組の拳銃が使われたってことで観念したらしい。パン食う競争の後も抗争がひどくなってきてたから、引っ込むきっかけが欲しかったようだって話だ。だけど、お互い、組がつぶれない限り、抗争は起きるだろうって。そうだろうな。俺もいずれ殴りこみとかに行くんだろうな。また、おふくろ、泣かしちゃうな。
ベッドからほとんど動けないんで退屈になってきた頃、クラス代表って渥美たちが見舞いに来た。
「あの、めーど服、ごめんな、ボロボロにしちまって、べんしょーするから」
渥美がちょっと口尖らせた。
「ほんとよ、あんなにしちゃって……でも、東城君が謝ってくれたから、いいわ」
渥美、うれしそうに笑った。そんなにイスズのこと、好きなんか。強くて、あったま良くて、イケメンで、いい男だもんなぁ。
これ、クラスのみんなからって、ケーキくれた。あの後、体育館と調理室の片付け大変だったそうだ。廊下も階段も血だらけで、掃除の会社が来て、キレイにしたらしい。壊れたところの修理とかは、肥前組に弁償させたってのはイスズに聞いてた。
ニュースじゃ、半グレの岡田が以前トラブルのあった生徒に報復するためにヒト集めて、乗り込んできて、暴れたところを警察が突入してチンアツしたってことになってて、俺たちのことは詳しく取り上げられなかったって。うまくもみ消したってやつだな。ちょこっとネットで噂になったらしいけど、カヤがお得意のハッキングで火消ししたってことだ。
帰り際、渥美が振り返った。
「早く治んなさいよ、あんたが来ないと、東城君も来ないんだもの」
それから、休んだ間のノートのコピーって置いてった。それはいらねーよ。
イスズはナオキに送り迎えさせて、ほとんど毎日見舞いに来てた。たまにカヤも顔出してきて、わいわい騒ぐから、怖い看護師さんに怒られてる。
カヤはあの写真をショウゴさんに見せたらしい。
「あのショウゴさんが目丸くして吹きだすのを我慢してるの、受けたよ!」
ちぇ、俺も見たかったな。俺がネタにされてるのに、見られなかったのちょっとムカついた。
一か月入院してから、家で後二週間は安静にしろって言われて、イスズの家に戻ってきた。舎弟のにいさんやおじさんたちがめちゃ喜んでくれて、ちょっとしたエーユー?なんか、照れくさいくらいほめてくれた。
「銃創あるなんて、イッパシだな、紋々よりすげーぞ!」「どれ、見せて見ろや!」
ワイワイ寄ってきたのをまだ包帯してるからダメだってイスズに追っ払われてる。
夕飯はようやくセイさんの料理が食べられた。美味しくて涙出た。病院の、まずくて仕方なかった。たまにナオキがセイさんの弁当差し入れてくれるのが楽しみだったけど、やっぱ、あったかいやつ、食べたかった。
夕飯の後、ひさしぶりにイスズと風呂入った。俺はまだ湯船入れないけど、サンスケしあって、すげー気持ちよかった。看護師のにいさんに包帯変えてもらって、部屋に戻った。
ナオキが布団引いてくれて、また明日なって出て行った。まだ九時だったけど、病院もそのくらいで電気消えちまうから、習慣になってたっていうか、もう布団中に入って、ゴロゴロしてた。急に隣から声がした。
「ハル……入ってもいいか」
イスズだ。なんか、声が恐る恐るって感じだった。
「ああ、いいぜ」
すーっと襖が開いて、寝間着のイスズが入って来た。起き上がった俺に寝てていいって言うので、また横になった。イスズの指が俺のデコの髪を撫でた。
「……あのとき、ナイフ持ってたら、あいつのチンポ切ってたかもしれない」
物騒なこと言う。
「ああ、あんときは、ほんと、やばかった。助かったよ」
そういや、あんとき、イスズ以外とはやだって思ったんだっけ。俺、イスズとならいいって思ってるてことか?キスだけでなく……って?
なんか、恥ずかしくなってきた。
俺がそんな、ちょっとエッチなこと思ってるのに、イスズはめちゃ真面目な顔して、すごくつらそうに話し出した。
「おまえのこと、大事なんだ、すごく、すごく、だから……」
俺、なんかイスズが言いたいことわかったような気がする。慌てて遮った。
「俺さ!ずっと、ずっと、イスズのボデーガードやる!おまえが殴り込み行くならついてくし、おふくろ泣かすようなことになっても、おまえについてく!」
イスズ、顔伏せて、震えた。泣いてるのか。
「……ずっと、俺についてきてくれるんだな」
声が詰まってた。
「ああ、ずっとだぜ」
って答えた。当然ジャン。俺、おまえに惚れてるんだから。とことん付き合うって決めてるんだから。
イスズが嬉しそうに泣いてる顔を起こした。起き上がると、イスズの顔が近づいてきた。
キスだ……イスズと、キス……するんだ。
うれしい。唇が重なって。ぎゅうっと抱きしめられた。気持ちいい。ずっとキスしてたい。
「うわあっ!」「押すなよ!」
えっ!?
障子がガコって外れて、中に倒れてきた。俺とイスズが飛びのくと、ギリなところで避けられた。
「おまえら!」
障子の上にナオキが倒れてた。カヤがすっ飛んでずらかった。
「あ、これは、その、カヤがふたりが心配だからって……それで!」
言い訳無用ってばかりにイスズがナオキに飛び掛かろうとした。ナオキが本気で逃げ出した。
「すんません!すんません!!」
他の部屋のにいさんやおじさんたちがなんだなんだって顔出してきた。ナオキは庭突っ切って逃げた。
障子嵌めながら、俺とイスズでやれやれってため息ついた。でも、なんか、楽しい。ふたりで顔見合わせて笑い合った。
月が変わって、ようやく学校に行けるようになった。相変わらず、A組からは睨まれてるけど、前より話したり、一緒に昼食ったりするようになった。B組も男子も加わって、クラス中で仲良しになって、ワイワイ楽しいガッコ―生活送れるようになった。
12月になって、クラスでクリスマス会やろうってことになって、ひとり500円くらいのプレゼントを用意して、歌歌いながら、次々に回して、歌終わったところのプレゼントをもらうっていう余興やることになった。
俺とイスズは、ショウゴさんに頼み込んで、プレゼントを買いにいくことができた。エルモールの中の雑貨屋に行って、選んでいると、声掛けられた。
「ハル君?久しぶり」
振り向くと、リツが立ってた。
「あ、リツ……元気だったか?」
そういや、LINEもしてなかったな。リツからも来てなかったけど。
「うん、なんか学校大変だった?」
学園祭のことだろう。
「ちょっと騒ぎあったけど、大したことなかったよ」
隣にいたイスズの肩を突いた。
「イスズ、こいつ、リツ、友だち」
イスズが振り向いて、リツを見ている。
「イスズ君?」
こくって頷いて、俺の手を引っ張った。
「いくぞ」
じゃあなってリツに手を振って、引っ張られていった。リツも手を振って、横にいた同じ学校のやつと笑いながら離れていった。
イスズはちょっと機嫌悪そうだったけど、プレゼント選んでいるうちに直ったみたいだ。ふたりで選んだやつをキレイに包んでもらい、リボンかけてもらった。
クリスマス会は全員で椅子取りゲームしたり、クイズ大会したりして、大盛り上がりで楽しかった。浦部先生も一緒に歌歌って、プレゼント回して、俺が買ったやつが当たってた。猫の小物入れだ。小学生の娘さんにあげるって言ってた。優しい父ちゃんだな。
大晦日、俺とイスズは、若頭やショウゴさんたちと一緒に、初詣に行くことになった。年越しそば食べて、勝手口から出て、表玄関に回った。イスズが待っていて、いつも迎えにくる黒い車に乗った。
「寺で除夜の鐘、突くんだ」
へえ、ゴーンってやつか。寺はそんなに遠くなくて、降りると、けっこうヒトが集まってた。先に着いてた車から若頭や他の幹部が何人か列作って歩いてる。ショウゴさんとイスズ、その後から俺とナオキが続いた。カヤは寒いからヤダって来なかった。
ふつうの客たちが両脇に避けてく。まあ、強面のそれっぽい面々が集団で歩いてるんだから、怖いよな。
寺の横の方の階段から若頭たちが本堂?に入って行く。中でお経聞くんだって。そっちでなくてよかった。俺とイスズ、それとナオキは外の鐘のところに行った。何人か並んで鐘付く順番を待ってる。
「さみーな」
手が冷えてる。イスズが握って来た。やっぱ、冷てえ。でも、繋いでるうちにあったかくなってきた。
ゴーン。
最初に寺の坊主が付いて始まった。しばらく待ってると、俺たちの番になって、イスズと一緒に鐘付いた。
ゴーン……ゴーン……
ああ、新年になるんだなって思った。
今年、いろいろあったな、ありすぎたな。でも、きっと、新しい年もいろいろあるんだろうな。もう入院はいやだけどな。
賽銭箱に10円入れて、おふくろのお店繁盛しますように、俺とイスズが元気で楽しく過ごせますようにって祈った。おみくじは俺が小吉。イスズは中吉。まあ、ほどほどってことだな。
明けて正月は、寺の境内で、組の傘下の倉橋組がやってるテキやの手伝いをすることになった。ナオキが毎年手伝ってるってことで、俺にもやってこいって言われた。
イスズは、組長と一緒に年始挨拶に来る客の相手するんだって。すごく嫌がってたけど、後継ぎだから、しかたないってため息ついてた。ショウゴさんも幹部候補とかで出迎えとかするそうだ。舎弟のにいちゃんやおじさんたちの話だと、まだまだ先だろうけど、いずれ若頭になるんじゃないかってことだ。
俺とナオキはチョコバナナの店手伝うことになった。ナオキが、バナナの房束寄越して、皮剥いて、割りばしに刺せって、ちょっと先輩だからって、えらそーに。で、言われた通りに、薄い手袋して、せっせと剥いて割りばしに刺していくんだけど、バナナがまっすぐじゃないから、割り箸は奥まで刺しすぎず、真ん中ぐらいまでにしておいてから、屋台の上の発泡スチロールの穴に刺してく。横でナオキがチョコレートを溶かしてて、バナナにチョコレート付けて、カラフルな粉かけてく。ナオキは、毎年やってるから、手慣れたもんだ。
隣では、倉橋組のにいさんたちが、射的やくじ引きの店開いたりして、中坊や、ガキどもとかが群がってる。俺たちのチョコバナナもけっこう売れた。クラスメートも何人か、親とかと一緒だったり、友だち同士で来たりして、買ってってくれた。
終わった後、倉橋組のオヤジさんからお駄賃貰った。そういや、一応毎月組からお給金貰ってるんだけど、ほとんど使うことないから、積み立てってやつしてもらってる。年取ったら年金とかないから、必要になるって。うーん、よくわかんないな。
正月過ぎてから、俺はめちゃくちゃべんきょーした。赤点バッカだから、3年に進級できなくなりそうって脅されたんだ。何度も追試してもらって、レポート出して、その上オマケしてもらって赤点ギリギリで進級できることになった。俺もイスズも出席日数は全然足りないと思うけど、なんか、いいみたいだ。ちらっと聞いた話だと、組長と校長は幼馴染で、組からたくさん寄付してるらしい。組の構成員の子どもとかも何人か通っているんだと。いろいろ配慮ってやつ、してくれてるんだな。
3年になると、別のクラスになるやつもいるだろうけど、俺とイスズは同じクラスになる予定だ。まあ、ズルだよな。
3月になって、春休み、組で花見に行くことになった。
俺とセイさんが早起きして、弁当を作った。大所帯で行くから、けっこうな量だ。せっせと焼きおにぎりや卵焼き、唐揚げ作った。セイさんはキレイな太巻きやら煮物やら作ってく。花見専用の重箱弁当があって、毎年の行事だっていうから、来年も再来年もみんなで花見行けるんだな。
ナオキが前の晩から場所取りして、大きな桜の木の下の一番いい場所を陣取ったって。天気も良くて、ぽかぽかあったかい。花見日和だ。
敷いたビニールシートの上に乗って、弁当広げて、ビールで乾杯しようとしたら、ショウゴさんに缶取られた。
「未成年はだめだ」
えー、死にそうなくらいぶん殴るのは良くて、酒はだめなのか。なんかおかしくないか。チェッ。
「俺たちはジュース」
イスズがジュース寄越した。早く大人になりてー、酒飲みてー。
「乾杯!」
みんなで乾杯した。ナオキが俺の作った焼きおにぎり、頬張って、うまいって感心した。
「ハル、セイさんの一番弟子だからね」
カヤも美味しいって食べてる。イスズも俺手製の卵焼き食べて、上達したって褒めてくれた。
俺、もっとセイさんに料理教わって、イスズにうまい飯毎日食わせてやりたいな。
サーっと風が吹いた。桜の花びらが空一杯に飛んだ。俺は空を見上げた。
「わあっ、キレイだな」
「ああ、キレイだな」
イスズと空を見上げた。きっと、この先、ずっと、ふたりで空を見上げると思う。どんなときも、ずっと。ずっと。ふたりで。
《完》
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