第十ニ章 君と千日の夏 二

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 おいてゆけの声も、乃里のものだと思っていた。だが、それでは、時系列的に全く合わない。 「!!乃里の、日記??千の物語」  そこで、改めて千の物語を読むと、最後に全て過去になると走り書きがあった。 「様々な事柄も、過ぎれば過去になる。未来予知も、過ぎれば意味の無い事だ。全て、未来だからこそ、意味があった?」  予知という面では、過去になったら意味が無かった。しかし、乃里は日記を書いていて、過去をも書いていた。 「…………だけど、知りたくない過去もある」  千の物語には、武智の事も書かれていた。武智は様々な人と付き合い、やがて複数の病院を展開してゆく。そこには、成功のシナリオがあったが、裏では幾つもの絶望を体験する。 「武智は、ゆずり葉 葉織さんのファンらしい」  植物好き同士で、通っている植物園が一緒だったらしい。葉織は、そこで植物をスケッチしていた。 「葉織は熱心に、植物を引き抜いて根をスケッチしていた。てっきり花をスケッチしていると思って近付いた武智は、暫し固まる」  そして、武智は葉織に、花を描いているのかと思っていたと呟いてしまう。すると、葉織は植物の仕組みをスケッチブックで解説し、根と葉の神秘を語り出す。  そして、一時間が経過し、武智が我に返ると、葉織は笑顔で同志だねと握手した。  だが、葉織は佐々木と結婚する。 「武智は佐々木を見に行く」  葉織を任せても大丈夫な相手なのか、武智は佐々木を見に行く。すると、佐々木はミネラルウォーターを武智に渡し、炎天下ですので熱中症に気を付けてくださいと声を掛ける。武智は、自分は医者だと言いたくなったが、佐々木の魂は綿で、包み込む優しさがあった。  それに、本当に炎天下に立って、佐々木を見つめ続けていて、熱中症になりかけていた。  佐々木の魂は、植物に似ていて、武智は癒されるという意味を知った。そして、二人に愛娘の茶菜が産まれると、その愛娘の愛らしさにも心を打たれる。 「野に咲く花が美しいのは、強風も豪雨も覚悟して生まれるからだ」  そこに咲いている強さに、武智は感銘を受ける。 「……武智は、佐々木一家が大好きなのか……」  こんな所で、佐々木と武智が繋がっていたとは知らなかった。武智は隠れて、佐々木一家を溺愛していて、既にストーカーのようだった。しかし、それが、武智の唯一の癒しになっていた。 「武智にも癒しがあって良かった…………」
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