第十三章 君と千日の夏 三

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第十三章 君と千日の夏 三

 速水 真兵は、一種類の占いに特出しているわけではなく、佐々木と同じく、手相から顔相、母親譲りのジプシー占い、辻占いなどもしていた。  そして、武智の未来も見ようとしたが、余りに定まらない運命だったので、眩暈がして倒れそうになる。 「道端で倒れそうになった真兵を、助けたのは武智だった」 「そして、自宅に持ち帰り??」  真兵は正直に、武智の未来を見ようとしたら、嵐の中に放り込まれたようになったと告げる。すると、武智は大笑いして、その通りだと言った。  武智の母親は優秀な研究者で、武智は早くに研究者として母と比べられる事に疲弊し、挫折した。そして、父親の元で、地道に医師として生きていこうとしたが、そこには病院を経営しなくてはならないという壁があった。  医師と経営は、全く異なる分野で、武智は医師だけに全うしようとするが、跡取りという立場が、それを許さなかった。 「真兵は、全てを見ようとしたから眩暈がするのだと気付き、一個、一個の未来を読み解いてゆく」 「経営には、有能な経理担当と、運営、管理をおき、一人に権力が集中しないようにする。そして経理と切り離した地位に、人事をおき、適切な評価と報酬を用意する」  真兵は、病院経営には関わらないが、武智の相棒となってゆく。 「武智は、人の死と向き合い、優しい時間で終わる事を願っていた。それは、治療に金をかけるのではなく、残された大切な時間と向き合う行為であった。しかし、医師は、最先端の治療を追い続ける事が良いとされる中で、武智は異端でもあった」 「しかし、真兵はこれからの未来では、武智が正しく、それは後世に残すべき、重要な道筋だと言う」  真兵は、武智に傾倒してゆき、必死に占いを続ける。そして、そんな真兵を、武智は愛し始める。 「だけど、肉体関係にはならない」  しかし、二人の関係は、占い師と医師で、中々進展してゆかない。だが、ある日、運送中の事故で、真兵が怪我をする。 「真兵は、崩れてきた荷の下敷きになり、二日間の意識不明」 「武智は、真兵を失えない人だと認識。意識が戻った途端に、自分の病院に転院させる」  大切な人を失ったと思った瞬間に、爆発的に愛おしさが込み上げてくる。そして、助かった事で、未来に繋がり、二人は恋に堕ちた。 「病院の片隅に、武智は茶室のような建屋を作る。そこは、自分の仮眠室兼接待に使用する筈だったのだが、二人の愛の巣になった」 「あの建物がそうなのか……」  だが、真兵は男と恋愛という事を、受け入れられずに苦しむ。
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