第十三章 君と千日の夏 三

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 しかし、乃里の千の物語は、まるで見ていたかのように、未来を書いている部分がある。それは、まるで事実を書いているようで、フィクションとは思えない。 「真兵は、自分が黒澤に攫われてしまう未来を知った」 「その前に、過去ループに逃げ込む?」  真兵は、失踪した事になったが、過去に存在しているのだろうか。 「いや、未来を見て来たように語っている」  これは、過去のループではない。 「ここが、過去なのではないのか????」 「時間軸がズレているからか??」  時間軸がズレているのならばループとも言い切れない。何か、そこに落とし穴があるのだろう。 「血痕は何だろう…………」 「それは、黒澤さんが用意したトリックではないのかな???」  黒澤も、その事に気付き、真兵の所在を掴もうとした。 「黒澤さんが用意する前に、自分のトリックがあったとか???」 「そんな馬鹿な…………」  現に黒澤も、真兵を探している。あれは、嘘ではないだろう。 「未来が交差している????」  黒澤は、自分が用意しようとしたトリックが、既に在った事に驚く。そして、真兵の占いを、別の意味で理解した。そこに存在しているのは、未来なのだ。 「こんな事が、在り得るのか????」 「全くだ………………!!!!!!」  この物語に続きがあるのかと、残りを急いで読んでみると、現在とは全く違った内容が書かれていた。 「…………ここからは、別の物語のようだ」 「本当だな。付け足して書いたという感じがする」  真兵と武智は、海外に移住し、小さな医院を作り、死ぬまで一緒に暮らす。その途中で、養子も育て、その養子が医院を継ぐ。田舎町で、二人は周囲と折り合いをつけながら、必死に生きてゆく。 「ここに、乃里の存在はない」 「どうしてだ?????」  ここまでくると、実際はどうだったのか、分からなくなってきた。 「でも、真兵と武智が相思相愛だったと、乃里は知っていた?」
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