第十三章 君と千日の夏 三

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「そうなるな」  乃里と真兵は、夜の街で出会った。恋をしていないならば、生きていないというのは、真兵自身の事だったのだろう。  そして、もしかすると、真兵は乃里の事を知っていたのかもしれない。 「でも、武智さんは影武者と付き合っていた……………………」 「武智さんも、影武者だったとか?」  ここまできて、思考が行き詰まり、やはり真兵が失踪した現場を確認してみる事にした。 「明日、行ってみるかな…………」  もしくは、今日の夜、竜に乗って確認して来よう。 「乃里は、真兵が失踪した事を知らない」 「でも、武智と相思相愛だと知っていた」  真兵と武智の濡れ場は、どれも激しく、しかし楽しんでいた。海を見ながら、山を見ながらと、物を使ったり、新しいグッズを買ったりと二人で相談して実行していた。 「この二人に、乃里が入り込む余地はない」 「失恋で眠ったのか?」  しかし、それだけだったのならば、黒澤が記憶を探して欲しいなどと言わないだろう。 「まあ、今日はこれ以上無理だな」  そこで俺が風呂の準備をしていると、玄関のチャイムが鳴っていた。こんな時間に誰が来たのだろうかと、画像で確認してみると、そこにいたのは瀧澤だった。 「え????瀧澤さん???」  俺が慌てて玄関に行くと、晴れなのに雨が降っていた。 「ゴメン。どうしても、水瀬君の手料理が食べたくて…………」 「え???俺達、今日は駅の弁当だったので、何も用意していませんよ」  しかし、瀧澤を追い返す訳にもゆかず、家の中に入れてしまった。すると、塩家が風呂から出てきて、苦笑いしていた。 「まあ、何か作ります。車を借りられて、とても助かりました。何か御礼をしたいと考えていました」 「…………礼なんていいよ。それに、出張ディナーをお願いするから」  俺は冷蔵庫を開け、材料を確認すると、オムライスとサラダを出した。すると、瀧澤は暫し眺めて鑑賞すると、ゆっくりと食べ始めた。 「ツアーは終わったのですか?」  確か、スケジュール表を貰って貼ってあった筈だと、冷蔵庫の横を見ると、メモに使用してしまっていた。
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