第十三章 君と千日の夏 三

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「…………まだ残っている。でも、ここから通える範囲だから大丈夫」  瀧澤は大丈夫だと言っているが、塩家が調べてみると、ここから車で二時間ほど離れた場所だった。 「これからホテルに戻るのも大変でしょうから、泊まってゆきますか?」  しかし、この家にゲストルームというものはない。 「いいの?」 「塩家と一緒の部屋でいいですか?」  俺の部屋には、布団がないので、和室に止まる方がいいだろう。 「…………………………」 「水瀬、俺と一緒にすると、ヤルよ」  塩家は、困ったように首を振っているが、これから二時間かけてホテルに戻るのは大変だろう。 「このリビングに泊めてくれればいいよ」 「わかりました」  では、瀧澤が食をしている間に、布団を用意しておこう。 「水瀬……………………」  俺が布団を運んでいると、溜息をつきつつ、塩家が手伝ってくれた。 「水瀬、子供じゃないのだからさ…………」 「俺は子供の頃の記憶が無い。そこに、重要な事が隠されている気がする」  俺も、瀧澤の好意は気付いている。でも、進展するには、過去と向き合う事が必要になってきている感じがする。それは、竜宮城ではないが、浦島太郎の子孫を見て悟った。  竜の一族が人間になると、かなり瀧澤に似ている。でも、瀧澤は人間で、竜ではない。 「竜が人間になったら、瀧澤さんに激似しているような気がする」 「竜って、コイツ???」  竜も布団を背に乗せて運んでいる。しかし、何度も落としては、俺を巻き込む。何も俺の上に布団を落さなくてもいいと思うのだが、何故か落とすのだ。だから俺は、仕方なく、何度も竜の背に布団を戻す。 「そう。コイツとか言うな。竜は水竜で最強の存在だぞ」 「竜とはヤッた事がないからな…………比べようがないな…………」  何でも、相手と寝て確認しないで欲しい。  そして同様に、満里子の中に残っている、嵐竜と塩竜も、瀧澤に似ている感じがしている。 「満里子に残った、嵐竜と塩竜の記憶も、俺は失っている。どうして、記憶が失われたのだろう………………」 「…………どうして、なのだろうな」
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