第一章 千の栞

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「しかも、今日は祝日で、休みだろう?」 「そうだよ。本当ならば、釣りに行っている筈だった。それなのに……急に呼び出された」  どうも、区役所で何か問題が発生し、急に資料が必要になったらしい。そして、倉繁が呼び出され、書類を用意した。しかも、昼までかかってしまい、釣りを諦めたらしい。 「そう、俺と釣りの約束をしていたのに……」 「野々村???」  野々村は、陽洋まで徒歩で来たが、ランチの時間が過ぎていたので、諦めて帰ろうとしたらしい。しかし、店内から声が聞こえたので、勝手に入ってきたという。 「鍵、掛けていなかったか?」 「あ、俺が開けた」  野々村も高校時代の友人で、釣り好きだった。野々村は、一人でも釣りに行きたかったのだが、倉繁の車で行く予定になっていたので、諦めるしかなかった。 「ほら、魚料理を出すから……」  野々村は大手電機メーカーの経理で、今は商品開発部の企画課に属していた。 「魚、釣りたかった」 「料理は美味しいけどさ……」  カウンター席で二人は、賄い料理を食べながら、どんよりとしている。  しかし、ランチの時間に来て欲しかった。賄い料理では出せるものは限られてくるので、来ると分かっていれば、材料を残しておいた。しかも、野々村の分もとなると、パスタくらいしか出せない。 「桜エビのパスタ、食べるか?」 「食べる。大盛りで!」
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