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倉繁は、ランチの看板を片付けようと外に出たら、看板の前で腹を抱えてしゃがみ込んでいた。俺が構わず、看板を片付けようとすると、がっしりと俺を掴み、一緒に中までやって来た。そして、腹が減ったと連呼した。
「水瀬は、いつも……いい奴で、人気者」
「腹が減っていると、何かくれる」
倉繁が腹を抱えていたのは、朝から何も食べていなかったので腹が減ってしまったが、コンビニで済ます気分ではなかったかららしい。
「それで、野々村とここで待ち合わせをしていたのか?」
「いいや」
野々村は急に釣りに行けなくなり、不貞腐れて寝直し、腹が減って起きたら昼だったという。そして、昼飯を探して彷徨っていたら、陽洋まで来てしまったらしい。
「野々村、この近くに住んでいたか?」
「どうも、三キロくらい彷徨っていたみたいだ」
三キロメートルも歩いていたならば、他の店もあっただろう。
「公園の並びに、中華がある、ランチもやっていただろう?」
「中華の気分ではなかった」
俺は昔、陽洋の二階に住んでいて、ここから中学と高校に通っていたので、店の近くに友人はいる。陽洋のコックをしている事も知られているので、昔の級友も顔を出してくれる。
しかし、行き倒れのように来ないで欲しい。
しかもこの二人は、国立の一流大学を卒業しているエリートであった。
「水瀬、サラダも欲しい」
「贅沢言うな……でも、人参ならあるか……」
昔から、この二人はかなり優秀な人材で、俺とは住む世界が違っていた。それが、社会人になってから、かなり接近してきたように感じる。
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