第一章 千の栞

6/12
前へ
/164ページ
次へ
「水瀬、いつも可愛いよな…………」 「不気味な事を言うな。追い出すぞ」  すると顔や姿ではなく、腹が減ったと言えば、渋々でも料理をしてくれる所が可愛いという。 「そうだよ、彼女やお袋だと、かなり文句を言われて、しかも作ってくれない」 「自分で作れよ」  すると、冷蔵庫の中身を勝手に使えないらしく、買い物から始めなくてはならないので面倒だという。 「いつも、作って欲しい…………そうしたら、もっと頑張れる」 「そうそう、ここに来て、水瀬の料理を食べると、二日は頑張れる」  ここはレストランなので、ランチの時間に来てくれれば歓迎する。 「水瀬!!いつも料理を作って!!」 「ランチに来い!」  俺が倉繁に絡まれていると、塩家がやって来て、賄い料理を食べ始めた。すると、倉繁と野々村が、顔を見合わせた。 「塩家君!話をしたかったよ。いつも忙しそうで声を掛けられなかった!!」  忙しそうではなく、本当に忙しいのだ。  しかし、野々村も大きく頷いていた。 「そう、不思議な事があってさ。でも、正気か?と思われるから、誰にも言えなかった」 「そのまま、誰にも言わない方がいいのでは?」  その、誰にも言えないのに、俺達には言える基準は何だろう。 「夜釣りに行った時だよ」  そして、俺達の嫌そうな表情など気にせずに、倉繁が説明を始めた。  倉繁と野々村は、一緒に夜釣りに行く事も多いらしい。それは、仕事が終わってから待ち合わせをして出発し、そのまま朝まで釣りをすると、車で仮眠して帰るというものだった。 「そう、その日も、深夜に出発して、朝まで釣りをしていた」  釣り自体には、不思議な事が無かったらしい。 「行った場所は、半島の崖。丘の上に大きな病院がある。そこは超有名な病院で、大きな庭園もあって、散歩している人も多い」 「昼間はね」
/164ページ

最初のコメントを投稿しよう!

68人が本棚に入れています
本棚に追加