第十章 空は近に在って遠い 五

7/7
前へ
/164ページ
次へ
「…………。ごちそうさま」 「お粗末さまです」  そして、吉見は俺をキリリと見ると、危険な事はするな、危なかったら逃げろ。助けはすぐ呼べと、説教してくれた。 「くれぐれも無茶しないように…………それと、攫われないようにね……水瀬君」 「はい!注意します」  吉見曰く、俺が攫われると困るのは、楽しみな賄い料理が食べられなくなるからだという。でも、吉見の目は、馬鹿な弟を見る時と同じ、諦めと慈愛に満ちていた。 「今は可愛いけれど、きっと美人になるな……困るよね…………」 「満里子ですか?」  すると吉見は、俺の頭を撫ぜていた。 「祥太郎に頑張って貰わないとね……ライバルが多い」  俺が首を傾げていると、しきりに塩家が笑っていた。 「水瀬は気付くまでに、百年かかりますよ」 「それは、いえている!」  吉見と塩家は、同意して笑っていた。  そして、賄い料理が終わると、俺は佐々木のいる薬局に向かう事にした。 「え。塩家も来るの?」 「当たり前だろう。竜には管理が必要……暴走するからな」  塩家と駅に向かうと、来た電車に乗り込んだ。佐々木のいる薬局は、近いと言っても、二駅ほど離れていた。陽子のよく行く病院と家とは、方向が異なっているので、陽子もわざわざ佐々木のいる薬局に行っているのだろう。  電車の窓から外を眺めていると、遠くからきゃあきゃあ騒ぐ声が聞こえていた。隣に立っている塩家は無視しているが、腐っても役者なのか、とても人目を惹く。  比べられると、俺も惨めな気分になるが、それも最近は慣れた。 「…………水瀬、椅子に座っている男、ずっとこっちを見ている」 「?????」  男の視線には気付いていなかった。  塩家が振り返るなというので、そのままにしていると、男が立って寄って来ようとした。すると、別の男性が遮り、俺に笑い掛けるとそのまま立ち去った。 「誰だろう?」 「知らない人か?」  結果として、助けられたような気がする。
/164ページ

最初のコメントを投稿しよう!

68人が本棚に入れています
本棚に追加