第十一章 君と千日の夏

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 俺は祥太郎のように、魂がはっきりと見えているわけではないが、感覚的には分かっている。  佐々木の魂は柔軟で、相手の魂を包み込む。それは、見えないハグのような感じだった。 「…………こういう魂の人もいるのか…………」  包み込んで温かい。そういう魂の形があったのだと、初めて知った。 「多分、遺伝だろうな。佐々木の一族に、羊のような人がいたのだろう」 「羊????」  羊のような人というのは分からないが、俺の魂は水のようだと、祥太郎が言っていた。すると、綿もあっていいのかもしれない。 「ほとんどの人の魂は、石か?だから、人は宝石に惹かれるのかも。それが、美しい魂の形だから」  塩家の解釈も、一理あるような気がしてきた。俺が宝石に興味がないのは、それは魂が石ではないからなのかもしれない。 「でもさ、もう一つの解釈がある。魂は望みに近くなる」 「佐々木さん本人、もしくは先祖が、包み込むような柔らかい魂を欲したという事か?」  包み込むような魂を欲する。どんな、状況だったのかさっぱり分からないが、今、目の前にある魂は人を癒している。 「水瀬も、人を包み込むような優しさが必要だな。今は、溺死させそうな勢いで流れているけどさ……」 「竜は浄化も意味する」  何だか言ってみると、自分が水洗トイレになった気分になった。 「でも、佐々木さんは、占い師もやっていると聞いたけれど、占う必要がないな……相手が、自分で回答を見つけてゆく」 「まあ、客のほうも誰かに言いたいだけなのだろう」  説明している内に、自分の状況が客観的に見えてくるというのもある。  佐々木を観察していると、知らない女性がやってきて、俺達にアイスを分けてくれた。 「箱で買ったけれど、こんなに要らないから、食べてね」 「ありがとうございます」  俺がアイスを食べていると、今度は煎餅がやってきた。 「近所で売っているのよ。おいしいよ」 「ありがとうございます」  この煎餅はとてもおいしい。後で、売っている店を聞いておこう。 「佐々木さんは、父親が占い師だ」 「速水 真兵は、母親が占い師……同業者だったのならば、知り合いかも」  すると、佐々木と真兵が知り合いという事も在り得る。
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