第十一章 君と千日の夏

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「ウサギ…………」 「ハムスター…………」  俺と塩家が呟くと、佐々木がニコニコと笑っていた。 「煎餅は土産に差し上げますので、私の質問に答えてください」  佐々木は、休憩時間に走ってここまでやってきたらしい。そして、佐々木が俺達と話しをしたいのだと察知した常連客が、引き留め作戦に出たようだ。  俺達にアイスをくれた女性も、煎餅をくれた女性も、遠くから俺達を見ていた。 「質問ですか?」 「はい」  佐々木は柔和な雰囲気だったが、口調がはっきりとしていた。だが、安定した声音で、聞いていてもきつい感じはない。 「その前に、先程の回答です。大恋愛はあります。でも、それが幸せとは限りません」  佐々木は俺の横に座ると、自分でも煎餅を食べ始めた。 「私の父親は占い師です。でも、占い師になる前は、教師をしていたそうです」  佐々木の父親が、初めて授業をした日、質問をしてきた女子生徒がいた。だが、それは授業の内容とは異なっていたので、後で回答すると答えた。その女子生徒は、廊下まで追いかけてきて、回答を聞いた。 「その女子生徒は、運命の予測は、計算で出来るのかと聞いた。私の父親は、予測は計算で出るが、人間を数値にするのは難しいと答えた」  確率が未来なのかと言われると、それも違っているように思える。 「数学を教えていたのですか?」 「いえ、国語で、専門は古典文学です」  古典で計算の質問をしてくる、女子生徒も凄い。しかし、物語の作者は、起こる得る未来を書いているのかと、質問したかったようだ。 「そして、二人は恋に堕ちました」 「…………分かるような、分からないような………………」  教師と生徒という関係は、やがて終わる。その時に、恋人になろうと誓った。しかし、その夢は叶わなかった。 「父は古典の中に存在する、占いも研究していて、いつしか雑誌などに連載するようになっていました」  その頃の佐々木の父親は、教師も辞め、占い本と、占い師で生計と立てていた。 「そんな不安定な職業の者と付き合うな。彼女の両親が怒り、交際を認めませんでした」  しかし、その彼女も占い師になった。二人が占い師では、両親も不安だったのだろう。
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