第十一章 君と千日の夏

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「互いに好き合っていましたが、どう転んでも、明るい未来が見えなかったと言います。それ位、二人の収入は安定していなかった……」 「要は、その時点では、収入が少なかったのですね」  佐々木が、大きく頷いていた。恋愛のその先には、収入という壁があったのだ。 「私の父親は、今は有名人で、収入は私の五倍はあります。でも、そうなるまでには、二十年ほどはかかった」  佐々木が生まれた時は、母親の扶養になっていたという。 「母親の扶養?」 「そうです。二人は結婚できませんでした。互いの未来が見えていたから、別れたのだと言いました」  他の人と結婚した先に、最良の未来が見えてしまったので、別れたらしい。 「でも、親友というのか…………戦友のような関係で、付き合いが続いています」  それは、不思議な関係で、その女性と佐々木の母親も、親友のようだという。 「その二人は、子供が生まれたら、結婚させようと誓っていました。でも、連続して男が産まれて…………最後に、やっと妹が生まれました」  だから、当然、結婚するのだと思っていたら、相手が消えてしまったという。 「私の妹は、相手の方を気に入っていました。私も生まれた時からの付き合いなので、よく存じていて、しかも、年が近かったので、親友になっていました」 「過去形ですね」  佐々木は、そこが問題なのだと言った。 「先方は男二人兄弟で、私には兄二人のようなものです。その次男と私は、同じ年の学年違いで…………本当に兄弟かと思うほどです」  あれこれ何でも話し、佐々木が結婚する時も、占ってくれたという。そして、満点という回答を出し、祝福してくれた。 「占いをされているのですか?」 「そうなのです。それも、あんなに当たる占いは知りません。個人に限って言えば、未来が見えているかのようでした。だけど、不幸は回避させるので、当たらない占いになります」  当たらない占いにさせる為に、必死にアドバイスしてくれるらしい。 「……………………速水 真兵さんですね?」  乃里の千の物語も、占いだったのかもしれない。 「そうです…………真兵は本当に凄い占い師です。でも、当たらないようにするので、永遠に無名です」
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