第十一章 君と千日の夏

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「だが、私の父、乃里さんも、きっと………………。一つの肉体に一つの魂というパターンです」  魂が分かれていない場合は、とても強く、激しい運命を引き寄せる。 「満里子の事を知っているのですか?」 「はい。陽子さんに相談されていました。しかし、今の陽子さんは、満里子さんを憶えていない。何かあったのだと、思っていましたが…………」  そして、佐々木の質問が残っていた。 「貴方は竜ですね?」 「人間です」  しかし、竜はここにいる。  俺が竜を見せようとすると、佐々木は首を振った。 「魂が人ではないのですよ。だが、一緒にいる竜とも、少し違っている……」  竜の本質が魂にあるという。それでゆくと、俺の魂は水のように透き通っていて、形を持っていないらしい。 「真兵の伝言は、自分は黒澤さんから逃げているでした。黒澤さんとは、あのカリスマ美容師でしょうか?」 「…………………………そうか……」  全てが、一つに繋がってゆく感じがしていた。  佐々木は俺と会話をしながら、俺と陽子の繋がり、そして滿里子、竜の存在を察知していった。それは占いではなく、思考の自由さ、そして観察眼によるものだろう。だが、その観察眼により、俺の気付いていなかった、新たな関係性にまでたどり着いていた。  未来を見ていた真兵は、黒澤の未来を見てしまったのだろう。そして、黒澤は真兵が見た未来を知ろうとした。 「もしかすると、黒澤さんが真兵さんの行方を知っているのかな…………」 「それは無い。知っていたならば、黒澤さんは乃里さんを助けない。それに、乃里さんの記憶が少し失われていると言っていただろう。それが、真兵さんの行方だ、きっと……」  そこで、真兵がいなくなった時の状況を、もう一度おさらいしてみた。  真兵は、宅配便の配達中で、クリーニング店の前にいた。そして、クリーニング店に荷物を届けた後に、消えてしまった。 「衝撃音と血痕のせいで、事故に巻き込まれたと思われている」  車の傍らに大量の血痕が残っていた。その血液型は、真兵と一致していた。 「RHマイナスのAB型。だから、真兵の血で間違いないとされた」  でも、そこで、ふと別の事が気になってしまった。 「真兵さんと、乃里さんの未来は、どうなっていたのでしょう?」
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