68人が本棚に入れています
本棚に追加
第十ニ章 君と千日の夏 二
佐々木は、質問は一つではないと言い、あれこれ俺と塩家に質問してきた。
「塩家君は役者だよね?どうして、複数の魂を持っているの?それは、役柄のせいなのかな?」
「これには色々と事情がありまして………………」
塩家が説明しようとすると、佐々木は察して頷いていた。
「陰陽師の弟子の役をしていた。そうか、それで術を掛けてしまったのか…………凄いね。困った事だけど」
「…………はい」
そして、佐々木は事情を知る事が出来るが、解決策は分からないと言った。
「私は、本人の言葉を引き出す事しか出来ない。だから、塩家君が答えを持っていなければ、知る事ができない」
すると、天才陰陽師でも、回答を持っていないという事になる。
「でもね、一つの可能性の話しだけど…………これは、もしかして、救済なのかもしれないね……」
佐々木は、魂の救済として、融合があったのではないのかと推測していた。
「まあ、仮説ですけどね」
「可能性はありますね。だから、陰陽師の術として存在していた。でも、解除の方法は無かった。最終手段だったのかもしれません」
そう考えると、今の状況も理解できるという。
「こういうのは、真兵が得意だった……回答の無い未来を占う。でも、真兵が本当に知りたかった事は違っていた」
真兵は、何故、母親が恋を諦めたのに笑っていたのか、ずっと答えを探し続けていた。
「恋は夢と同じで、叶った先にも続いてしまう、瞬間で終わるものではないのですよ。だから、真兵は、その事を知らせる為に、乃里さんに千の恋物語を書くように言った…………」
だが、それだけでは意味が通じず、真兵はあれこれ佐々木に相談していたらしい。
「だから、恋を知らないのに、恋物語は書けない。恋とは何かといえば、私にとっては千日の夏休みみたいなものだと言いました」
夏休みは、楽しくて夢みたいなのに、いつか終りがやってくる。終の先にあるものは現実で、夢の続きはそこにはない。
「学生生活の中で、その夢のような夏休みは、千日はない。だから千日というのも、夢になる」
だが、その千日にも満たない夏休みが、一生の内で一番輝いている夏だという。
だが、乃里は病気で学校に通えなかった日々が長かったので、夏休みの意味も分からなかった。
「真兵は、最初、乃里さんの状態に同情したのだと思います。そして、生きていて欲しいと願った。ただ、それだけだったのに、いつしか、それが日常の一部になった」
乃里は一日で、何度も未来が変わる時があった。だから、真兵は何度も、占いをしていた。
「乃里さんは、本気で自分の未来を考えてくれる、真兵に惹かれていった」
医師も乃里の未来を考えてくれたが、患者は一人ではない。真兵が占うのも、乃里一人ではなかったが、特別な存在だった。
「その乃里さんからも、真兵は消えてしまった。そのせいなのか、乃里さんは眠ったままになった」
最初のコメントを投稿しよう!