第十ニ章 君と千日の夏 二

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 だが、分析すると、陽洋のランチはいつもの店で、特別ではないらしい。 「水はいいです!あれは美味しい。サラダも劇的に美味しい!!でも陽洋のランチは、ディナーにある華がない!」 「陽洋のディナー、特に高島さんの時は、料理が感動なのだと言います」  俺はランチが日常なのだと思っていたが、二人は金を出して食べるのならば、ランチにも感動が欲しいという。 「そういうものか…………」 「美味しいです。嬉しいです。そこに感動も欲しい」  洋平のディナーは、心に響くものがある。俺のランチには、それが無いという。 「贅沢ですか?」  俺もプロなので、頑張ってみたい。 「…………やってみるよ…………」 「あの、水とサラダは最高ですよ。あとは、料理です!!」  最高があるので、あんなに人が通うのだと、二人の学生が納得していた。 「祠堂さんは、色々ありますが、役者としては凄いです。端役でも、決して手を抜く事がない。又、主人公で見てみたいです」  役者としてはと、限定を付ける気持ちは分かる。 「演技に華がある。でも、そのせいで主人公をくってしまう」  脇役に目がいってしまい、メインのストーリーがどうでもよくなってしまうらしい。 「まあ、水瀬さんも一緒です。水が美味過ぎて、料理が霞む時がある。それに、水を飲みたくて、店に行ってしまう」 「深海の謎の水、竜宮水とか、奇跡の美味さです!!!!飲むと、自分も謎の存在になった感じになる」  水が美味しいので、他が霞むという事もあるらしい。  大学生は、遠慮もなく論じてくれるので、とても参考になるが、心にグサグサと刺さる。メンタルな部分が弱い俺は、立ち直れるだろうか。 「それと、祠堂さんが店員とか…………まるでドラマの中のようで、ずっと店内を見ていたくなりますよ」 「そこに、水瀬さん!!役者じゃないところが初々しくて、抱き締めたくなると、彼女がよく言っています」  男に言われていなくて良かった。 「二人とも、見た目が抜群にいいですからね………………」 「でも、親しみやすいと分かって、通いたくなりました!」  学生は次の駅で出てゆくと、ホームで大きく手を振って見送ってくれた。
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