第十ニ章 君と千日の夏 二

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「目立つ!」 「何もしていなくても、目立つというのに…………」  やはり、塩家は人目を惹く。  俺は、塩家の中身を知っているので、外見が見えなくなっているのかもしれない。塩家は今も、群を抜いて整った姿をしていて、絵に描いたような、理想の王子様だ。これが祠堂になると、色気と艶が出てきて、爬虫類と称したくなってくる。そこが不思議なのだが、それも役なのだと言われれば、納得するしかない。  塩家はいつも、完璧に役を演じるのだ。 「……水瀬、凄い形相で俺を見つめるのはやめて…………気になる」 「見られる事には慣れているだろう」  しかし、俺に見られていると、喧嘩を売られている様で嫌だという。 「…………始めから、全部が繋がっていた」 「……………………そうだな。こんな小さな世界だから、繋がっていてもおかしくはないけど…………」  どうも、黒澤の実験に巻き込まれているようで腹立たしい。 「到着した」 「煎餅も食べ終った」  俺は駅で降りると、構内で販売していた弁当を購入した。すると、不思議そうに、塩家が弁当を見ていた。 「美味しいのか?ここの弁当」 「普通の味がする」  この駅で売られている弁当は、近所の総菜屋が出しているものだ。しかし、ここでは販売していないので、弁当を買うとなると難しい。だが、たまに、構内で販売してくれるのだ。 「ここの総菜、母が作っていた料理の味に似ている」 「俺も買って来よう」  塩家と弁当を買って家に戻ると、急に腹が減ってしまった。そこで、弁当を食べ始めた。 「最初の依頼、倉繁と野々村、おいていけと声が聞こえた件。これは、一ヵ月くらい前の出来事だ」  だから、最初は繋がっていないと思っていた。一ヵ月前となると、乃里は眠っていたし、真兵は失踪していた。 「真兵がいなくなったのは、約一年前……」 「乃里が眠ったのも、約一年前」  ここは、関連があるだろう。そして、黒澤は乃里を目覚めさせようとした。 「黒澤さんは、何故、今、乃里を目覚めさせようとした?」
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