第十ニ章 君と千日の夏 二

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 黒澤は、武智に功績を上げさせる為に、乃里と同様に眠ったままの人間を集めていた。そこに、俺と塩家が行けば、今回のような現象に辿り着く。つまりは、塩家が持っている魂を使い、眠ったままの人間を強制的に目覚めさせる事が出来る。  しかし、そこに一年という歳月が必要だったのだろうか。 「武智皆原総合病院は。見学者が殺到しているらしい」 「まあ、あれだけ目覚めさせればそうなるだろう」  ここに辿り着くまでの道のりは、黒澤が書いたシナリオ通りだったという気がする。  まず、俺に物に魂が宿る現象を見せ、様々な魂がある事を教える。そして、人工の魂で動揺させ、人間と生との関係を考えさせる。そして、空の肉体を用意すると、そこには塩家が抱える魂もあった。そして、どちらも、もう一度、生きて欲しいと願ってしまう。  そして、結果として、俺達は空の肉体に魂を入れ、目覚めさせてしまった。  しかし、それが黒澤のシナリオ通りだったとすると、今の真兵への執着の意味が分からない。 「武智さんから連絡があったから、聞き出してみたら、俺用の木も用意していると言っていた」  それは松で、新しく庭に用意させたという。何の目的なのか、知ってしまったので、唸るしかない。 「塩家、もう少し、自分を大切に出来ないものか??」 「松が相手か……………………やった事ないな…………」  塩家も、そこで迷わないで欲しい。 「人間相手にしてください」  武智は人間を助け続ける事に疲弊していて、木々や自然に愛情を憶えるらしい。そして、武智は盆栽なども趣味にしているが、一番の趣味は木と人の交尾を見る事だったらしい。 「でもさ、黒澤さんは、武智さんの母親の研究資料が欲しいわけだろう?もう、充分に近付いたと思うけど」  黒澤は、武智の母親が研究している血液の資料が欲しかっただけだろう。すると、そろそろ手を引いてもいいのではないのか。それに、黒澤の影武者も、限界にきているように見えた 「時系列………………???」 「…………………………あれ????」  ここで、やっと乃里と真兵の事に戻ると、おかしな点に気が付いた。 「乃里が目覚めなくなったのは、真兵が失踪する前だ」  てっきり、俺は真兵がいなくなって、乃里が目覚めなくなったのだと思っていた。だが、実際に日付を確認してみると、真兵が失踪する、数日前に乃里は目覚めなくなった。 「でも、それでゆくと、おいてゆけの声は、乃里が眠ってから一年近く後になる」
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