第一章・シェア

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「あ、あのさ……もしかして、“青星ライナー“っての書いたヒト?」 「え、あ、うん……一応、そう、だけど……」  “青星ライナー”ってのは、俺の唯一の肩書みたいになってる新人賞を貰った作品名だ。  内容は片田舎の高校生の、まぁ、よくある恋愛小説のようなもんで、ただその想い人が同性って言う話。半分が実話で、半分が作り話なそれを、書き上げた当時大学4年の終わりだった俺は、一世一代の賭け事として投稿したんだ。これでダメならフツーに就活するしかないなぁって。  なのに、奇跡的に賞なんか頂いちゃって…………それで調子に乗ったんだってのも言える。これで食ってこうって思っちゃったんだから。  昔からぼんやりでぽつんとしていたから、一番のしあわせはひとり黙々と何かを書き綴っている時だった。  はじめはそれこそ大学ノートの端に、それがやがて父親のお古のパソコンになって。紙でも画面上でも、自分が築き上げた世界の中に没頭している瞬間はすごくすごく楽しかった。時間も食事も疲れも忘れるほどに。  好きで好きで仕方なかった事を仕事にできるのはしあわせなことだってよく言われる。本当にそう思ったし、思ってる。そんなところに立てる自分を誇らしくさえ思った。賞をもらえてそれは一層強く思った。  でも、思うだけでは何もならないことも、すぐに思い知ったんだけどね。 「俺、それ、すっごい好き!何回も読んだ!すっごい読んだ!」  その時も今みたくスランプ中で、アキくんの言葉はリアルにもらったかなり久々の生の声だった。賞をもらったばかりはそれこそ形だけの上辺のそういう言葉はいっぱいもらってたんだけどね。そういうのってなかなか触れることなんてないもんだから。俺みたく日陰に入ってしまうとなおさら。  唯一持ってる雑誌の連載小説の感想が何通か来る以外に読者からのリアクションなんて皆無な俺に、アキくんの言葉は、声は、表情は、神経や脳みそを直に触られたぐらいに大きなショックだった。まるで、俺のすべてを認めてくれたような、気がして。  それをきっかけにして、家も歳も近いってこともあって、アキくんは俺の家にしょっちゅう来るようになった。  お目当ては俺が作るご飯。初めてウチに遊びに来た時、ライブの時に介抱して付き添ってくれたお礼にって、ちょっと作って出してあげたらすっごい気に入ったらしくって、じゃあ……って、来るたびになんか作ってあげてたらそれが当たり前のようになってたんだ。  俺は物語を書いてくのともう一つ、子供のころから親が共働きだったのもあって、台所に立って手伝いをしたりするのが苦じゃなかったから、簡単な料理ぐらいは一応一通り作れるんだ。小説書くのに煮詰まった時にいい気分転換になるしね、案外。それにやっぱ料理って誰かと食べるのがおいしいし。  メシ代の代わりにって言って、アキくんは来るたびに酒とかお菓子とかを買ってきてくれた。時々、作業着のままで来て、風呂を借りてくことだってあった。そうなると風呂も洗っておくことになる。  俺はいつの間にか、アキくんの時間に合わせて一日を刻むようになっていた。買い出し行って、掃除して、ご飯作って、っていう。まるで健気な新妻みたいな生活サイクル。  傍から見るとちょっとおかしな日常。小説は進まないし、買いだしはチャリだから面倒で疲れはするのは事実でもあるんだけど…………だけど、あんまり嫌ではなかった。  なんで嫌じゃないのか、その理由はうすぼんやり解っているようでわからなくて、はっきりさせたいようなそうしてしまうのは怖いような、なんとも曖昧な気分を抱えたまま、今日も俺はアキくんの帰りを待つように家の中を整える。
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