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リタのために宿をとり、ぼくは自宅に帰った。
何度も背中を振り返り、付いて来ていないことを確認する。
自宅のせまい部屋に二人で生活をするのは息苦しい。ロウとハーゼルへも説明がつかないので、付いて来てもらうと困るのだ。
未明には起きて、集会に行く準備をしないといけない。
たぶん集会では、ぼくらはペーペーの最末端パーティーだと思う。遅刻は許されないのだ。
――ギルドハウス
集会室の窓から朝日が差し込んだ。
長机を囲む冒険者の顔が並ぶ。歴戦の勇士たちはただならぬ気配をまとっていた。
厳つい顔もあれば一癖ありそうな優男もいて、同じ雰囲気の横顔はない。しかし一様にして落ち着いていた。
ピンと張りつめた冷涼な空気に身震いした。
特注の肘掛け椅子を軋ませて、ギルドマスターが立ち上がる。
「アルケスのパーティーがいないようだな。アルケスのランクは?」
「ベテランでございます」横に控えていた、クエスト相談員が答えた。
「連絡はできているのか」
「はい。間違いなく」
「では、一つ降格」
「分かりました」
何年もかけて築き上げたランクが、たった一言で下がった。
自然にぴしりと背筋が伸びる。
「では、皆さん。お忙しいところご参集いただきありがとうございます。わたしはギルドマスターの補佐をしております、ビルブと申します」
ビルブは丁寧に頭を下げた。
「おい、前置きはいい。さっさと始めてくれ」ぼくよりも端に座っている男が声を上げた。
席順は適当で自由なのだが、ぼくらは遠慮してなるべく端に陣取った。
男は左眼に眼帯をしていて、右目で刺すようにビルブを睨む。
ビルブは柳のようにゆれた。
「これは失礼。ここで皆さんに話をしたいのは、ダンジョン攻略の順番です。一斉にパーティーが乱闘すると効率が悪い。どうでしょう、みなさんでダンジョン探索の順番を決めていただけないでしょうか」
「では、おれは一番最後でいい。スターがいるのならば十分だろう」隻眼の男は大声を張りあげて立ち上がる。
「みなさんはそれでもよろしいですか」
誰も反対しないことを確認すると、さっさと男はひとり集会室を出て行った。
残されたパーティーで順番が決められた。スターランクのあとにベテランランクで突入し、1パーティーに与えられた時間は半日。
制限時間内に戻らなければ、死んだもしくは脱出困難な状況になったと見做され、次のパーティーが突入する。
「ロウさんのパーティーは、最後から二番目でいいですか?」
僧侶のかっこうをした女性がほほえみながらたずねる。
「一番最初がいいんだけど」とロウが答えると、冒険者たちは笑った。
「気持ちはわかるが、ダンジョンに潜ったこともないだろ坊主は。命は大事にしろ」
二十ほど年齢が上で、四角く頑強な顔つきの男は見透かすように言った。
ムッとしたロウだが、スターランク相手にぐっと言葉をのみこむ。
「最後から二番目でお願いします」
ぼくが代わりに返事をして、ダンジョン攻略の順番は確定した。
「最後に、ひとつ」ギルドマスターが立ち上がる。「ダンジョンがこの街にこれほど近づいたのは初めてだ。無論、攻略は当たり前だが、多くの情報が欲しい。二度と、この街の周辺にモンスターどもが現れないよう、みなの活躍を期待している」
そうして、集会は締めくくられた。
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