解呪屋店員のリタさん

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 酒場でロウたちとテーブルを囲んだ。 「「「乾杯!!」」」  生温いビールを飲むと、麦の香りが鼻いっぱいに広がる。酒場の料理は値段が高いけれども、パーティー結成の祝いと初任務達成の記念なので、たまにはいいかと思った。  七面鳥の丸焼きがテーブルに運ばれると、いの一番にナイフを突き刺した。三人は冷静にそれを見ていて、ちょっと恥ずかしい気持ちになる。皿にとった手羽先は、リタの前にそっと置いた。 「それで、もちろんダンジョンに行くよな」ロウは勝気に木製のジョッキを振り回す。 「わたしは反対。だって、ダンジョンにはどんなモンスターがいるのか分からないのよ。お兄ちゃんだって、前にドラゴンと戦って痛い目にあったじゃない。忘れたの?」 「おいおい、それをいま言うなよな」 「だって本当のことじゃない。もうパーティーの仲間なんだから、別に隠さなくてもいいでしょ」  ロウはビールを飲み干した。 「あれから、だいぶん経っているし、いつまで昔のこと言ってんだよ」 「そんなにお兄ちゃんが成長しているとは思えないけど」 「だから、盾役のショウマをパーティーに加えたんだろ。あれから、ずっと強くなっている。なあ、ショウマそう思うだろ?」  急に話をふられて、七面鳥に刺そうとしたナイフをひっこめた。 「ん……。そうだね、単独で攻撃するよりは、ずっといいんじゃないかな」 「ほら。そりゃそうだろ。なあ、いつまでもベテラン未満の依頼をやっても上にはあがれない。そしていま、チャンスが巡ってきているんだよ」 「……分かった。でも、危険だって思ったらすぐにダンジョンから脱出だよ」 「もちろん」  ロウはうれしそうにつぶやくと、七面鳥を雑に切ってガブリと食いつく。 「あ……」  ほんとんどをロウにもっていかれて思わず声がでた。 「ショウマさん、わたし鳥は苦手だから、残りは食べていいですよ」とハーゼルが気遣った。  酒場は客が増えていき、深夜になると笑い声や歌声が広がる。陽気な冒険者たちが肩を組み合って、一段高く作られたステージに上がると踊り始め、今日の賑わいの絶頂を迎えていた。  追加で注文した塩漬け肉のクラッカーにリタが(かじ)りつく。ロウが少し遠慮がちに口を開いた。 「あのさぁ、ちょっと気になっているんだけど、どうしてリタは幽霊みたいにショウマの背中に張り付いているわけ?」 「お兄ちゃん、失礼でしょ」と言ってみたものの、ハーゼルも知りたがっているようだった。 「……呪いなんです」リタはロウの質問に答えた。「仔細はお話できませんが、【解呪】でも祓うことができない特殊な呪いを受けて、このような姿になっているのです。わたくしが会話をできるのは、食事で口を開くときだけ。光を嫌い、人の陰を好む……」 「呪いなのか……。じゃあ無理をして、魔法を使わせていたんだね。リビングデッドのときも、スキル全消去のときも……」 「いえ、それは思い違いです。魔法は魔力があればいくらでも」 「え、じゃあなんで、リビングデッドのとき助けてくれなかったの。オークのときも」 「ショウマ、自分の実力で依頼は達成しないと。他人の力をあてにしてはいけませんよ。ショウマは強い。もっと自分自身を信じなさい」  思わず説教をされて閉口する。準備していたリタへの質問は、きれいさっぱり頭から消えていた。  リタは食事を終わらせると、皿の上にフォークを置き、ぼくの腕をつかんだ。その手は真っ白で、茶色だらけの酒場できわ立っている。 「ショウマのような心優しい人が、強くあるべきなんです。わたくしは後押ししますよ」  リタの瞳の奥に、高貴な光を感じて、いよいよ何も口に出せず硬直する。  ロウはニヤニヤしながら、「明日は早いからな」と言って解散した。
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