解呪屋店員のリタさん

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 軽く腰をひねって痛みがないことを確認すると、医務室のベッドから降りた。  横になって回復しているあいだ、【鉄壁】のスキルについて考えていた。  エアリーの話によると、大男はベテランランクだと言っていた。ビギナー、ベーシック、ベテランと、二つも上のランクになる。  そのクリティカルな殴打をダメージゼロにおさえるほど【鉄壁】のスキルは強くない。レベル1のラインナップにあるスキルだ。  スキル相談員も、【授与】したとき不思議な顔をしていた。手ごたえがないような、まるで違ったスキルを授与したような……。一日に何十人もの冒険者に【授与】を行う相談員が、ぼくのときだけ明らかに勝手が違ったのだ。  それに――以前の【鉄壁】よりも体力を消耗している気がする。  スキルはレベルに応じて体力を消費する割合が大きくなる。それは魔法も同じで、魔法は魔力を消費して、強力な魔法になればその分魔力もたくさん使う、らしい。  つまりこれは、ぼくが前に習得していた【鉄壁】よりも強くなっているということだ。そう考えると、大男を(ひる)ませるほど頑強になった説明がつく。 「あせりは禁物……だな。弱めのモンスターを相手に、実験してみるか」  ぼくはクエストE以下の掲示板に向かった。  酒場はまだ夕方だというのに、気の早い酒好きがテーブルを囲んでいた。  ぼくは医務室から掲示板に向かうため、酒場をよこぎる。 「はじめましてだよね?」と見知らぬ少年が声をかけてきた。  自分を指さして、ぼくに声をかけたのか確認する。  うん、と頷くと茶色い短髪の少年の後ろから、少年と同じ年齢ぐらいの少女が顔を出した。 「おれはロウで、こっちはハーゼル」  突然、自己紹介をする少年に「はぁ」と、いまいち呼び止められた理由が分からず、気の抜けた返事をした。 「もしよかった、パーティーを組まない?」 「ぼくと?」 「そう。さっき、ベテランのラスゲルとケンカしてただろ」 「ああ、たしかに。ケンカといっても殴られてばっかりだったけど」 「君の【鉄壁】、すごくいいなと思って。こうみえて、おれは槍が得意なんだ」  ロウの背中にはちょうど同じ背丈ほどの袋があった。 「ハーゼルは治療薬とか、そういうのが得意だから、あとは盾役がほしいなぁってずっと思ってたんだ」  依頼を受けるうえでパーティーを組むのはメリットのほうが大きい。圧倒的に生存率が高まるし、依頼そのものの条件になっていたりもする。依頼主としても、一人でこられてモンスターにやられてもらっては、お金を払っているとはいえ決して気持ちのいいものではない。  デメリットはパーティー内でのいざこざだろうか。人間関係のもつれ、取り分の不平不満、戦いかたの批判など。 「少し条件があるけど、いいかな?」 「おう、条件って」ロウは片眉だけ上げて、腕を組んだ。 「【鉄壁】のスキルを試してみたくて。まずはクエストD以下の依頼にしてほしい」 「分かった。こっちの条件としては、報酬はきっちり四等分。あと……」とロウはぼくの耳に顔を近づける。 「ハーゼルはおれの妹だから、間違っても手は出すなよ。君のにも、おれは手を出さないから」  そう言って、ぼくの後ろを指さす。  リタは妹でも恋人でもないんだが、説明をすると受付が閉まりそうなので、とりあえず頷いた。  ぼくはロウと握手をする。ここで一杯、となるのだろうが、今日は一度も掲示板を見ていないので、様子だけでも見たいというと快諾してくれた。 「じつは、ラスゲルが大っ嫌いで、君がラスゲルを追い払ったときスカッとしたんだ!」  ロウは掲示板に向かう途中で、そう言って爽やかに笑った。  
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