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燻製肉とピクルスをはさんだサンドイッチを配る。パンは硬めだが、薄切りにしてあり保存食としてもよくできている。ぼくのお気に入りの携帯食だ。
「ところで、君はどんな魔法が使えるの?」
ロウはサンドイッチにかぶりつきながら、ぼくの後ろにいるリタにたずねた。
「聖、闇、火、水、木、土の攻撃魔法を使えます」
振り向けば、リタが饒舌にロウと話をしていた。
「それって魔法の全部じゃない。ハハハッ……そんな魔法使い、街にも、王国にさえいないんじゃないかな」
パクパク食べながら、リタは口を動かす。
「王国にいますよ……わたくしがそうでしたから」
「ハハハッ、なかなかショウマの彼女はふっかけるね」
ロウは目を見開いて少し好戦的に笑う。
ぼくは二人の会話があまり頭に入ってこない。自然に言葉を発するリタを見て、胸の奥が絞られるような酸っぱい感情を覚えた。
「彼女じゃない。解呪屋の随行員さ」とぼくはその感情を否定した。
「随行員……?」
解呪屋の顛末について話すと、「そんなことあるのか」とロウは驚いた。
【解呪】がどうして全スキル消去になったのか、それを知っているのはリタぐらいだろう。ぼくも知りたいが、いまとなってはリタにも助けてもらったし、改めて責めるようなことはしたくない。
「でも、あんまりだわ。呪いを受けた仲間をクビにするなんて、いくら盾役だからって……」ハーゼルは気の毒そうにぼくを見た。
「盾役というよりも、壁役だね。壁役なんて誰でもなれるからね」と自分を卑下する。
「壁役だなんて。アルケスのパーティーはあんまり好きじゃないな」
ロウはそう言ってサンドイッチを食べ終えると、「美味しかった」と言って横になった。
夜風が教会の外壁にあたり、人の声のように響く。
見張りはぼくとロウで交互にすることにした。
ハーゼルはリタの顔色が悪いと言って、目元や首を触っていたが、しばらくすると二人とも眠ったようだった。
朝起きると見張りをしていたロウが、槍を抱くように寝ている。どうやら眠気に勝てなかったようだ。
ふと、ハーゼルの横で寝ていたリタがいなくなっていることに気付く。
「あれ? リタ?」
部屋の棚を開けたりして、隙間をのぞき込むがどこにもいない。
「リター!」
ぼくの声で目を覚ましたロウがビクッと体を震わせる。
「どうしたんだ!」
「リタが、朝起きたらいなくなってて」
香部屋を出ようすると、ロウが呼び止めた。
「そこにいるじゃない」
ぼくを指さしたので二度振り返ると、目の前にリタの顔があった。
「ああ、そうか。先に起きてたのか」ほっと胸をなでおろす。
「随行員とかいって、本当は気があるんじゃないんですか」
一部始終を見ていたハーゼルが揶揄った。
倒れたオークから首飾りを回収する。ざらっとした手触りの素材に、ドクロが豪快に彫られていた。
オークは必ずドクロの首飾りを身に着けているので、討伐の証になるのだ。
ほかにもオークがいないか探索をすることにした。クエストとしてはオークのせん滅になるので、一匹でも残っていれば虚偽の報告になってしまう。
教会内部は就寝前に隅々まで見て回ったので、今度は教会の外を調査することにした。
北側には深い森が見え、その手前に墓地があった。
崩れた塀にたくさんの墓石が囲まれ、倒れた鉄柵が人の形に見えて不気味だ。
見捨てられる前は、門だったであろう塀の途切れた部分に、大きな木が生えていた。
枯れ枝にカラスが三羽とまり、こちらをじっとみている。ウータイがカラスの声を真似ると、カラスたちは一目散に逃げていった。
「これは……!」
枯れ木の根に巨大な穴が開いていた。深い穴の周りには、赤黒い粘土が塗られている。
後ろに続くロウが、穴の下に一段降りて確認する。
「間違いないな。ダンジョンだ」
魔物がボスを中心に形成する要塞。
オークはただの見張り役だったのだろう。初めて見るダンジョンに鳥肌が立った。
「お兄ちゃん、早くあがってきて」
「このまま突入してみるか?」とロウは見上げてぼくにアイコンタクトする。
「馬鹿なこと言わないで!」ハーゼルは本気で怒った。
「そうだな、ギルドに戻って報告しよう」
なるべく冷静な口調でそう言ったが、内心はダンジョンがどのようになっているのか見てみたかった。噂によればお宝が眠っているらしい。
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