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ジリジリと肌を焼く七月中旬。明日から最後の夏休み。セミは『さあ、つがいを!』を騒いでいる。
ちょうど四年前のこの時期だ。大学デビューで一人暮らしを始めて慣れたころ。同じアパートの上の階に住むアミに一目ぼれをして、とうとう気持ちが抑えきれなくなって。
僕は、近くの公園にいたアミに勇気を出して告白した。大学生の僕と社会人のアミ。会うたびに忙しそうで、僕を視界に入れる余裕すらなかっただろう。
「いいよ」
「えっ?」
「いいよ?」
潤んだ大きい目。笑った時の貴重な笑窪。違和感なく染めた茶色のポニーテール。栗色の瞳を隠す赤色メガネ。全てが太陽に反射してキラキラしていた。
アミがオッケーしてくれただけで、この場所が天国に変わったんだ。
「いつから私のことが好きだったの?」
「エレベーターで出会った時から、一目ぼれでしたっ」
「ふーん。そっか。じゃあ、明日から、お試しでね?」
今時、わざとらしいウインクでキュンとする人なんていないだろうな。僕はその眩しさに心を射抜かれながら、冷静に真実を聞くことにした。
「なんで、お試しなんですか?」
「うーん。だって、こういう関係って慣れてないし」
「そうですよね・・・・・」
バカらしいと思った。お試しなんて意味ないのに。
『俺に全てを委ねてください』
僕は言葉を飲み込んだ。社会人で経験を積んだお姉さんには、嘘くさい言葉に聞こえそうだったから。
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