遡上する鮭

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 ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。  「あいかわらず、朝早いなー」  ベッド横のスマホで確認すると朝七時。アミは僕の夏休みと休日が重なった時に、必ず朝七時に突撃する。僕の予定は筒抜けなのに、アミの予定は秘密。仕方ないのかもしれないけれど、四年目でも秘密はもどかしい。  僕は目を擦りながらインターホンを見た。  「おはよう、アミ」  ”『おはよう、アミ』じゃないでしょ。入っていい?”  「えー」  ”時間がもったいないよ”  「そうだね。ちょ、ちょっと待ってね。着替えるから」  ”早く、ね”  腕を組んだ機嫌の悪いアミにアタフタして僕は支度を終える。朝食なんて食べている場合じゃないから、牛乳で我慢。  「おまたせ」  「もー。たるんでいるんじゃない?耳をすませなよ」  「なんだろー」  僕は、目を閉じ両耳に手を当てて周囲の音を聞いてみた。  「ごめん、わからない」  「ばか。『もう動きだしなさい』ってセミも鳴いているでしょ?外も暑いんだからね」  手を団扇にしてパタパタと扇ぐ。熱さでほんのりピンク色のアミは、いつだってカワイイ。  「外で待たせてごめんね」  「もう、いいよ」  プライベートのアミは、髪をおろしてコンタクト。花柄ワンピースにベージュのカーディガンを合わせて、小さめのリュックサック。付き合い当初の僕の好みだけれど、もう好みは違っているし、そろそろ別のアミを見せてほしい。  「なに、ボーッとして」  「いや、カワイイなあって」  「やめてよ、恥ずかしい」  恥じらう顔に、僕は、我慢できずにキスをした。ファーストキスと同じ味。唇は柔らかく、アミからキャンディーのような甘ったるい柔軟剤の香りがした。  「私の口紅ついちゃったね」  「うん」  「ご飯食べた?」  「ううん」    「じゃあ、作ってあげる」  「いいの?」  「簡単なものならね」    最高の言葉が返ってきた。
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