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次の日。
「おはようございます」
「えっ……おはようございます。早いんですね」
「ポストの中身を回収しようと思って」
「そうですか」
僕はアミのタイミングに合わせてエレベーターに乗った。仕事モードのアミは冷たい。詮索されることを嫌うから、敬語。
「いつも妻のアミがお世話になってます」
「こちらこそ、いつもお世話になってます」
「娘とも仲良くしてくれて」
「おはようございまちゅ」
「おはよー」
アミと、アミの隣にいる小さな女の子と、スーツの似合う背の高い男性を、僕の心の額縁に収めた。
「幸せそうで羨ましいです」
「そうですか?ありがとうございます」
優しい旦那さんと礼儀正しい娘さんに囲まれたアミは、俯いて何も言ってくれない。
「私、今日実家に戻るんです」
「え?」
アミ、やっと顔を上げてくれたね。
「アミも知らなかったの?」
「うん」
「実家って、どこですか?」
旦那さんがいてくれて助かった。旦那さんとは関係が薄いから、冷静に会話できる。
「北海道なんです」
「そりゃあ、随分と離れていますね」
「お父さんが漁師なんですけど腰を痛めちゃって。お母さんも年なので、お兄ちゃん一人だと大変みたいです。女手欲しいみたいだし、大学の卒業単位も取ったし。少しでも家族の近くに居ようと思って、就職先も地元に決めました」
「そう、ですか」
「お姉ちゃん、どっか行っちゃうの?」
「うーん、どうでしょ」
僕は言葉を濁す。ウルウルの目は、アミにそっくりだ。
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