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トラックに乗って
まだ、正子の子どもが一人で一歳だった頃。正子は26歳。
顔が童顔なので、年齢は若く間違えられることが多かったが、子供が生まれてからは母親として見てくれる人が多くなったので、やっと、年相応になったかな~。なんて感じていた。
その日は駅前のスーパーまで行く用があった。
駅に行くには急な坂道を上って、その後、迂回しているとはいえ、急な遊歩道を下らなければいけなかった。ベビーカーだとブレーキをしても怖いくらいの急な坂道なのだ。
バスは通っていない。
その日はお天気が良かったので、正子は長男のケンを連れて、ベビーカーで遠回りをして駅に向かうことにした。
急な道を行くと駅のショッピングモールの上に出るのだが、遠回りすると、駅の向かいの道路の消防署の横に出る。
『時間もある事だし、息子に消防車を見せたら喜ぶかもしれない。』
そんなことを考えながらノロノロと歩いていた。
歩いて駅に曲がる道は左側。自分のマンションから出る道も左側だったので歩道を歩いていると、
「すいませ~ん。駅に出る道が分からなくて困ってるんだけど。」
と、かなり上の方から呼びかけられた。
大型のトラックの運転手さんが、歩道側の窓を開けて正子に呼びかけていた。
正子はとっさに、
「私も駅に行くところだからよかったら乗せていただけますか?案内しますよ。」
と、言ってしまった。やっと一歳になった子供はすでに12Kgを超えていて、今日選んだ道でも最後の坂をベビーカーで押すのは重かったのだ。
トラックの運転手さんは一瞬驚いた顔をしたけど、
「じゃぁ、どうぞ。」
と言って、ベビーカーをたたんで、ケンを抱っこ紐で抱っこする間待っていてくれた。
駅に入る道は車だと一本しかないのだが、間違えて通り過ぎたらしい。正しく入る道を教えて、そのまま駅の近くまで乗せてもらった。
あまり駅に近づくと、駅の近くのバス停や、消防署の前だとトラックも止められないと思い、その手前で
「あ、ここまででいいです。」
と、言い、駅のある場所もきちんと教えてトラックを降りた。
「どうもありがとうございました。」
正子が礼を言うと
「あのさ、道教えてもらって助かったけどさ、知らない人の乗ってるトラックとか、あんまりホイホイ乗らない方がいいよ。危ないこともあるから。」
と、注意されてしまった。
正子が平和ボケして安寧な毎日に染まっていたのだろうか。
それともトラックの運転手さんは悪いことに手を染めていたのだろうか。
子供までいるので自分は大人のつもりだったが、正子は
「知らない人について行ってはいけません。」
と、子供のころに何度も言われていたことを今更ながら思い出した。
世の中はそれぞれみんな何かの色に染まっているのだろう。
正子は平和ボケの色って何色なんだろうと考えながら行き去ったトラックを見ながら考えるのだった。
【了】
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