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【1】
「あの、副島さん。これでいいですか?」
原田 祥真は、演劇サークルの先輩である副島 郁海に声を掛けた。彼の指示で作業を続けている十月公演用の立て看板を確認してもらうためだ。
振り向いた拍子に、彼の長めの髪が揺れる。赤味が強い茶色の、サラサラで柔らかそうな髪。瞳も赤茶で、どちらも天然らしい。
女性的だとはまったく思わないが、くっきりした二重瞼と長い睫毛に縁取られた瞳がいつもいきいきと煌めいている、とても美しい人。
服装にはむしろ無頓着とも感じるが、それがかえって素の美貌を引き立たせていた。決して惚れた欲目ではない、筈だ。
真っ直ぐな黒髪と黒い瞳だけではなく平凡な容姿の祥真は横に並ぶのも躊躇してしまうほどだが、彼はまったく気にした風もない。
単に甘いだけではないが、いつも優しい笑みの先輩。
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