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12月はパーティーの季節だ。
僕も薫も親の仕事関係の様々なパーティーに連れて行かれる。
薫は自分とこのホテルであるパーティーの裏方の仕事もあるから大変だ。
それは、毎年のことなんだけど。
でも今年は薫の仕事が例年より多い気がする。
クリスマスイブなのに、まだ薫は帰ってこない。
ーーごめん、もう少しかかりそう。
少し前、そうメッセージがきた。
会えないのかな、今日は。
両親もまだ帰っていない。というか、たぶん今夜は帰ってこない。僕は未成年だからって先に帰ってきた。
それを言えば薫も帰って来られるはずなんだけど。
あーあって思いながらSNSをぼんやりと見ていたら、ピロリンと着信音が鳴ってメッセージが届いた。
薫!
ーー終わった。これから行く。
わっわっ
やった会える!
うきうきしながらコートを着てマフラーを巻く。手袋はいいや。
コートのポケットに、プレゼントが入っていることを確認して部屋を出た。
聞いていた薫のスケジュールから、大体の到着時刻を考えながら準備をしてキッチンに向かった。
「幸子さん、僕このあと薫ん家行くから」
「はいはい。寒いですから、あったかくして行ってくださいね」
「うん。大丈夫」
幸子さんと話しながら、防犯カメラのモニターを見上げる。
「あ、来た、かな?」
車のヘッドライトが映った。それから走ってくるタクシー。それが徐々にスピードを落としていく。
止まった!
「あ、薫タキシードだ」
コートの下に蝶ネクタイ。
「え?それはお会いしたいです」
幸子さんがキラキラした目で僕を見た時、呼び鈴が鳴った。
「はーい。今行くねー」
と、インターホンに返事をして門を開錠し、幸子さんと共に玄関に向かう。
薫はうちの門の合鍵を持ってるけど、そのまま入ってきたりはしない。必ず呼び鈴を鳴らす。
玄関の引き戸をガラッと開けると薫が立っていた。
わぁ、綺麗
タキシード、すっごい似合ってる。
何回見ても見惚れる。
「ただいま、裕那。遅くなってごめんな」
「おかえり、薫。お疲れさま」
幸子さんも「お帰りなさい」って言いながら、うっとりと薫を見ていた。
「あ、幸子さん、これ。メリークリスマス」
薫がそう言って、小さめの赤くて可愛い紙袋を幸子さんに差し出した。
「え?私に、ですか?薫さん」
幸子さんは目をまん丸にして驚いてる。
「そう。いつもありがとう。クリスマスに1人にしてごめんね」
薫は幸子さんに微笑みかけながらそう言って、そして僕の方を見た。
「行こうか、裕那」
「うん」
僕は幸子さんに「行ってきます」と言って薫の隣に並んだ。
「門の鍵はかけとくからね」
「はい。承知しました。いってらっしゃいませ」
深々と頭を下げる幸子さんに手を振って、玉砂利を踏みながら薫と歩く。
「タキシードのまま帰ってくるとは思わなかったよ」
綺麗だなぁって思いながら見上げると、薫が優しく微笑みながら僕を見た。
「少しでも早く帰って来たかったからさ。タクシーだし、いいかと思って」
潜り戸を通って外に出た。外灯を多めに設置してあるから、うちの周りは割と明るくて鍵をかけるのに苦労しない。
でも、明るいからあんまりべたべたはできない。
隣にくっついて歩くだけ。
「渡るよ、裕那」
「うん」
道路を挟んだ隣が薫の家。
早く薫の家に入りたい。薫の家の門を潜れば、もう誰にも会わない。
薫の両親も、今日は帰ってこないから。
薫がバッグから鍵を出すのを、ついじっと見てしまった。
そんな僕の様子を見て、薫が僕の背中をぽんぽんと優しく叩いた。
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