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 そしてもう一度薫を見上げて、薫の右手に手を伸ばした。  いつも僕に触れる長い指。  その小指に、ゆっくりと指輪を嵌める。 「…たぶん、もうみんな気付いてる…。薫もそう思ってるでしょ?」  薫の手を握ったままちらりと見上げると、薫は少し眉を歪めて微笑んだ。 「ああ、そうだな…」  美波も弘康も幸子さんも、言わないけど気付いてる。少し前からそれは感じてた。…たぶん母たちも…。 「それに…ペアリングはやっぱりペアで着けたいよ」 「裕那…」  薫が長い腕で僕を包み込むように抱きしめた。 「薫、ありがとう。指輪大事にする…」  僕も薫をぎゅうっと抱きしめる。 「気に入ってくれた…?」  薫が僕に頬を擦り寄せながら言った。 「うん…。うれしい…」  指輪なんて初めてした。 「よかった…。でも淋しい思いさせてごめんな」 「あ…」  もしかして薫が忙しかった理由って… 「…これのため…?」 「やっぱさ、自分で働いて買いたいだろう?こういう物は。って言ってもまあ、親の手伝いなんだけど」 「…親の手伝いっていうか会社の仕事でしょ、薫の場合は」  手伝いのレベルじゃなく働いてるの、知ってる。 「ありがとう、薫」  うれしい  薫の胸に頬を付けたまま、右手を目の前にかざして輝く指輪を見た。 「きれい…」 「裕那の指がね」 「ち、ちがうよ、指輪が…っ」  そう言って見上げた薫と目が合った。  薫の手が、僕の頬に触れる。その指に光るリング。  うれしい 「どっちも綺麗だよ」  頬を撫でた手が、軽く顎にかかった。  目を閉じて、キスを交わす。  優しく優しく啄むように、薫が僕にキスをする。  僕はまた薫の背中に手を回した。  指に、慣れない指輪の感触。  しあわせ    唇を離した薫が僕を見つめた。 「愛してるよ、裕那」  耳元で甘く囁く薫の低い声。 「薫…」  とくんと心臓が跳ねる。  僕の頬にキスをした薫に、ふわりと抱き上げられた。 「もう一つ、プレゼントもらってもいい?」  薫が意味ありげに微笑んで僕に言う。 「え…?あ…」  隠された言葉に思い当たって、体温がぐんと上がっていく。  顔が熱い 「そういう、いつまでも慣れない感じが本当に可愛いよね」  そう言って少し意地悪な顔で笑う薫が、すごく綺麗だ。  僕を抱いた薫が、ゆっくりと寝室へ歩いて行く。  仄暗い寝室からは薔薇の香りが漂ってきていた。  了
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