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4
そしてもう一度薫を見上げて、薫の右手に手を伸ばした。
いつも僕に触れる長い指。
その小指に、ゆっくりと指輪を嵌める。
「…たぶん、もうみんな気付いてる…。薫もそう思ってるでしょ?」
薫の手を握ったままちらりと見上げると、薫は少し眉を歪めて微笑んだ。
「ああ、そうだな…」
美波も弘康も幸子さんも、言わないけど気付いてる。少し前からそれは感じてた。…たぶん母たちも…。
「それに…ペアリングはやっぱりペアで着けたいよ」
「裕那…」
薫が長い腕で僕を包み込むように抱きしめた。
「薫、ありがとう。指輪大事にする…」
僕も薫をぎゅうっと抱きしめる。
「気に入ってくれた…?」
薫が僕に頬を擦り寄せながら言った。
「うん…。うれしい…」
指輪なんて初めてした。
「よかった…。でも淋しい思いさせてごめんな」
「あ…」
もしかして薫が忙しかった理由って…
「…これのため…?」
「やっぱさ、自分で働いて買いたいだろう?こういう物は。って言ってもまあ、親の手伝いなんだけど」
「…親の手伝いっていうか会社の仕事でしょ、薫の場合は」
手伝いのレベルじゃなく働いてるの、知ってる。
「ありがとう、薫」
うれしい
薫の胸に頬を付けたまま、右手を目の前にかざして輝く指輪を見た。
「きれい…」
「裕那の指がね」
「ち、ちがうよ、指輪が…っ」
そう言って見上げた薫と目が合った。
薫の手が、僕の頬に触れる。その指に光るリング。
うれしい
「どっちも綺麗だよ」
頬を撫でた手が、軽く顎にかかった。
目を閉じて、キスを交わす。
優しく優しく啄むように、薫が僕にキスをする。
僕はまた薫の背中に手を回した。
指に、慣れない指輪の感触。
しあわせ
唇を離した薫が僕を見つめた。
「愛してるよ、裕那」
耳元で甘く囁く薫の低い声。
「薫…」
とくんと心臓が跳ねる。
僕の頬にキスをした薫に、ふわりと抱き上げられた。
「もう一つ、プレゼントもらってもいい?」
薫が意味ありげに微笑んで僕に言う。
「え…?あ…」
隠された言葉に思い当たって、体温がぐんと上がっていく。
顔が熱い
「そういう、いつまでも慣れない感じが本当に可愛いよね」
そう言って少し意地悪な顔で笑う薫が、すごく綺麗だ。
僕を抱いた薫が、ゆっくりと寝室へ歩いて行く。
仄暗い寝室からは薔薇の香りが漂ってきていた。
了
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