朝焼けに染まる

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 毎朝、神社の境内に集まるのは四人になった。最初に始めた両親たちと同じ四人。裕太も話が合う上に清香と健太の関係にも理解を示した。三十四歳のときに健太と愛美に息子が生まれ、清香と裕太が結婚をした。清香と健太の約束はその二年後に叶った。  朝焼けの境内。裕太が生まれたばかりの娘を大事そうに抱く。健太の背中には息子がすやすやと寝息を立てていた。  清香と愛美はじっと朝焼けを眺めている。 「健太……、私、お父さんとお母さんの気持ち、やっと分かった気がする。お気に入りの場所だけど、お父さんたちがどうしてここに拘ったか。この町が好きで一緒にいる仲間が好きなんだからと思う。お父さんに初孫見せられなかったけど、本当のことはもう分からないけど、そう思うんだ」 「そうだね。俺もそう思う。それでこれからもって思うよね。爺さん婆さんになってもさ」  愛美も健太も頷く。これからの長い時間、誰かが欠ける可能性でもあるだろう。それでも仲間は朝焼けの境内に集まるだろう。清香と裕太の娘と健太と愛美の息子は、成長するにつれて同じことをし、思うかも知れない。時代は繰り返すようです全く違う。  子供たちがどんな約束をするか、まだ誰にも分からない。ただ、四人ともこれからも強く思う。    そして、七十七歳。健太は杖をついて愛美と息子に連れられて神社の境内からの朝焼けを眺める。清香は裕太におぶって運んでもらい車椅子から娘と共に朝焼けを眺める。  清香も健太も老いには勝てずに毎朝朝焼けをここから見るのは十年以上前にやめている。だが、子供たちは毎朝のように通い、今までの人生で出会った相方と朝焼けを眺めている。  今日、清香と健太が久しぶりに神社の境内の朝焼けを見るのは、人生の最後にもう一度見たいとわがままを言ったためだ。誰も止めはしなかった。  姉のような清香に弟のような健太。その絆は誰の目から見ても明らかだ。 「健太、いい人生だったね」 「そうだな。清香がいなかったら俺、こんないい人生送れなかっただろう」 「私もだよ。一人っ子なのに弟みたいな健太がいたから私は幸せだったよ」  長い時間の中、二人の両親は全員天に昇っている。 「健太」 「何?」 「ありがとうね」 「俺こそありがとう」  きっと、ここの朝焼けを眺めることをはじめた両親たちは町を飲み込み鮮やかな朝焼けの向こうから清香と健太とその家族たちを見守っている。  清香と健太が朝焼けを見つめるその背に生きてきた証明の家族たちが控える。  血も繋がらぬ姉弟のような二人の朝焼けに染まる時間を邪魔せぬように。 了
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