朝焼けに染まる

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 一年が過ぎた。健太は未だに告白できずにいる。傍で見ている清香はじれったくて仕方ない。今朝も二人は神社の境内にいる。 「はぁ愛美(まなみ)さんが昨日も可愛かった……」 「聞き飽きたよ。結局可愛い可愛いだけ言って1ミリも前進してないじゃんね」 「だってさ……、怖いんだよ……。今の関係のままなら仲良くできてるけど告白して失敗したらお喋りもできなくなる……」  中学の卒業式に告白の経験があったとしても健太は尻込みをする。 「健太ねぇ、いつまでも弱気のまんまでいいの? 愛美さんを運命の人にしなくていいの? 結局何も変わらないの?」 「今は本当の恋をしているから怖いんだ……。清香には分からないよ」  清香のは血流が速くなるのを感じる。うじうじしている健太には腹が立つが、それ以上に健太の言い方にだ。 「好きに本当以外あるか! 本当の好きじゃないならそれは偽物じゃなくて嘘なんだ! 伝えられない想いで満足するなんて、それは嘘っぱちだ!」  清香の迫力に健太は一歩下がる。 「そんな言い方……」 「そんなもこんなもあるか! 健太は逃げているだけなんだ! ここで指切りしたの忘れたのか! 忘れてないんなら今日告白しなよ!」  言うだけ言って清香は健太を置いて立ち去っていく。残された健太は拳をギュッと握り、清香のあとを追う。  その一週間後、清香と健太の朝焼けの時間に愛美が加わった。 「わぁ! 綺麗!」  神社の境内から見える朝焼けに愛美に嬉しそうに声をあげた。 「俺は毎日清香とここの朝焼けを見てるんだ。でなきゃ一日が始まる気がしなくて……。愛美さんはもう俺の彼女だから教えなきゃって思って……」  ゆっくりと口を開く健太を清香は優しい目で見ていた。少しずつ健太は勇気を身につけて行く。清香が叫んだその日に健太は愛美に告白をしてOKをもらった。弟のような存在が前に進んでいくのを目の当たりにするのは嬉しいことだ。 「今度は私が彼氏連れて来なきゃな」  清香の言葉に健太も愛美もうんと頷く。 「私も毎日来ていい? 放課後デートもいいけど、朝焼け一緒に見るのも素敵だし」 「もちろん!」  清香と健太の声は重なった。三人でくすくすと笑う。 「これから末永くお願いします」  愛美のその言葉は真実となる。  三人は同じ大学へと進学したが、清香にまだ彼氏はいない。高校時代に何度かの告白を決行したが、その全てが失敗だった。告白を断った男子全員が健太のことを口にした。清香にとって健太はどうあっても恋愛対象にはならないが、傍から見れば気になるようだ。  健太は清香の話を聞き、愛美からどう見えているかと聞いた。 「んーー。はじめは気になったけど二人を知れば気にならないかな? 姉弟みたいなものでしょ? 清香さんにもきっと理解してくれる人が現れるよ」  愛美の言葉は清香にも健太にも勇気を与えたが、いつまでも清香が前進できないのを健太は気にする。  大学の入学式の朝、健太は清香に聞いてみた。 「清香に彼氏ができるまで、俺、ここに来るのやめようか?」 「駄目だ! 約束したろ! 健太がいなきゃ駄目なんだ! 健太のことを理解してくれる奴じゃなきゃ駄目なんだ!」  即答だった。清香は言い出したら聞かないのは健太が一番よく理解している。 「そうだよ。清香さんと健太くんの約束の上には私も乗っかっているんだよ? 簡単に止めたりしないでよ」  清香と健太の約束の話を知った愛美も健太をたしなめる。 「三人になれたんだ! 四人にもなれる!」  清香にとってその約束は人生の優先度で上位に来ている。健太が愛美を連れてきて現実味は増している。清香自身はそんなに焦ってはいない。自らを理解してくれる人がそう容易く現れるはずはないと知っているからだ。 「健太、安心しろ。今もこれからも私は健太の姉だ。健太に寂しい想いはさせない」  畳み掛けるように言われて健太は頷くしかできなかった。
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