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三十歳になった。清香にまだ恋人はできない。それよりも大きな事件を三人を襲う。
いつものように神社の境内で朝焼けを見る清香。何度も何度も涙を拭う。
「清香……」
健太もまたいつものように清香の隣に現れる。
「愛美は今日は遠慮するって」
「一人にしてよ……」
「いやだ! おじさんが亡くなって悲しいの清香だけじゃない。一人になんかできるか一人になんかさせるか!」
「う……う……うわぁぁ!」
子供のように泣く清香。今までずっと一緒にいて清香がそのように泣くのははじめてかもと健太は思いながら涙を拭う。
もともとこの場所は二人の両親のお気に入りの場所。清香と健太がいないときには両親も訪れていたという。はじまりの両親のうち、とうとう一人欠けた。
清香は声が枯れるほどに泣いた。やるせなさを打ち消せればいいと。
三十ニ歳。健太はついに愛美と結婚した。ささやかながら結婚式をあげて健太の実家で愛美が過ごし始めた。もちろん結婚式の翌朝も三人は神社の境内に現れる。
「二人とも本当おめでとう!」
清香にとって弟のような健太のお祝い事だ。嬉しいに決まっている。
「清香ありがとう。次は清香の番だよ」
「それなんだけど……やっと彼氏ができました」
「ええ!」
真っ先に愛美が声をあげた。
「おめでとう! そんな影なかったのに!」
愛美の言葉に清香は照れ笑いをする。
「いやね。結婚式のあと、やっぱりいいなぁと思って気になってる人に電話で告白してみたんだよね。思いの他うまくいきました」
おどける清香に健太は優しい視線を向ける。
「約束、叶えられるね」
三人は頷く。清香と健太から始まった約束。ここは両親たちの約束の地でもある。叶う日が近いと全員が思っていた。
「近いうちに連れてくるよ」
「ふふ。その人も早起きにしなきゃね」
健太の言葉に清香も愛美も笑った。
その翌朝。清香は約束通り彼氏を神社の境内に連れてきた。
「裕太くんです……」
紹介する清香は緊張していた。見た目で分かるように裕太は清香より年下だ。そのあたりのことを言われるんじゃないかと気が気じゃない。
「裕太くん、よろしく。俺、清香の弟みたいな存在の健太です。こちらは妻の愛美です」
「よろしくお願いします。ここ、素敵な場所ですね」
「だよね。私もはじめて来たとき、そう思った」
愛美が口を開き、健太と裕太と愛美が話し込む。年齢の話は一切出なかった。愛美は胸を撫でおろす。健太も愛美も当たり前のように裕太を受け入れる。心配するだけ損だった。
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