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朝焼けに染まる
新年。初日の出をじっと眺める。二組の夫婦。そのどちらの妻も大きくなったお腹をさすっていた。
「これからも毎年みんなで見れたらいいな」
一人の男が呟いた。
「そうだね。今年はお互いに家族増えるし、子供も連れてさ」
一人の女が呟いた。
「うんうん。中学のときから毎年見てたもんな。じいさんばあさんになっても一緒にさ」
一人の男が笑う。
「それで私たちがいなくなっても子供たちは続けてほしいね」
一人の女の口にする未来に全員が頷いた。
幼馴染みの四人はこれからを想像する。二組の夫婦となってこれからどんな家族を作っていくのか、どんな未来を作っていくのか。いつの間にか新年の約束事となった四人揃ってお気に入りの神社を初詣し、その境内で初日の出を見る。四人の顔は朝焼けに染まる。それぞれがそれぞれの顔を見てくすくすと笑う。腐れ縁と言ってもおかしくない関係。まさか結婚してまで続くとは全員が思っていなかった。だからこそ、これからも続くと全員が思っていた。
一年後、四人は六人となりまた初日の出を見る。増えた二人は男の子と女の子。どちらも父親の腕の中ですやすやと眠っている。親たちは朝焼けに染まる赤子の顔を優しい顔で眺める。この約束事はやはりこれからも続くのだと。予感だったものは確信に変わった。
「ごめんな」
清香が神社の境内で朝焼けをふくれっ面で眺めている最中、健太は清香の隣に立った。
「どうせ健太は大輔の仲間でしょうが」
健太は拳をギュッと握る。小学校のクラスメイトの大輔が「清香って本当ブス」と口にしたのに健太がついそうだなと返したのに清香は腹を立てていた。健太の本音ではないのは分かっていた。ただ悔しい。いやなことも嬉しいこともその翌朝にはこの神社の境内から朝焼けを眺め洗い流し噛みしめる。ここはお互いの両親のお気に入りの場所であり、清香と健太も両親に付き合って朝焼けを眺めていた。いつしか清香と健太のお気に入りの場所となっていた。喧嘩したときはここで仲直り。お祝いのときはここで祝福する。何もなくても知らずにここに足を運んでいた。
「清香はブスじゃない……。俺は嘘つきだ……。言いたくないこと言ってしまって……」
「いいよ。そうしなければ健太がいじめられるんでしょ? 分かってるし」
「ごめん……」
気の強い清香に対して健太は弱気だ。お互いの両親も性別が逆だったら良かったのにねと清香と健太をからかう。さらには清香が姉で健太が弟だと、清香のあとをついてまわる健太を見て、そんな話題もしていた。生まれた日時は一月も離れていないが清香も健太もその評価を受け入れていた。
「いいよ。謝ってくれたし。ただ、私が大輔ぶん殴っても文句は言わないでね」
「……うん」
その日、清香は大輔をぶん殴った。清香は大目玉を食らったが後悔はなかった。ブスと言われたのもそうだが気の弱い健太に無理に同調させた卑怯さも清香には許せなかったからだ。
その翌朝も二人は神社の境内から朝焼けを眺めていた。
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