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「――はい。誓います」
ソフィアは、はっきりとそう答えた。
ちらりと横目で隣に立つ人物の表情をうかがうが、ベールが邪魔でよく見えない。
隣にいるのはこれからソフィアの夫となる男だ。
彼とはついさっき初めて会ったばかりだ。
親族顔合わせの席で、新婦の妹として挨拶を交わした。
優しそうな人だと思った。
こんな人と結婚できる姉がうらやましいとさえ思ったのだ。
「…………誓います」
ソフィアの夫となる男、イーサンが不機嫌そうに答えた。
神父が困惑した顔で固まってしまう。
式の進行が止まってしまったので、ソフィアは軽く咳払いをした。
神父は、はっとした顔をすると、慌てて式を進めた。
神父が困惑するのは仕方がないと思う。
式が開始する直前に花嫁が入れ替わったのだ。そりゃ動揺くらいするだろう。
先ほどはソフィアではなく姉の名前を口にしてしまい、顔を真っ青にしていた。
しかし、イーサンの機嫌が悪いのはもう少しどうにかならないのかと思ってしまう。
これから妻になろうという人物が式直前に姿を消したのだから、少なからずショックは受けているだろう。
落ち込むのは仕方がないと思う。
だが、それはソフィアだって同じことだ。
姉が式直前に逃亡し、お前が代わりに嫁げと言われたのだ。
姉の為に用意された式場で、姉の為に用意されたドレスを着て、姉の婚約者と結婚する。
こんな惨めなことがあってたまるかと思う。
かといって、ここでソフィアが駄々をこねても姉が戻ってくるわけではない。
親がそうしろと命じてくるのだから、すぐに気持ちを切り替えた。
これも貴族の家に生まれてしまった者の定めだと受け入れたのだ。
元から思い合った相手と結婚できるとは思っていなかった。
いずれ父のお眼鏡にかなった相手と結婚させられるのだろうと覚悟していた。
すでに式場には両家の関係者だけではなく、来賓が来ていたのだ。
来賓の前で失態をおかすなんてことだけは、家名のためにあってはならない。
花嫁が入れ替わっているというだけで、すでに恥なのだ。
これ以上の不始末はだけは避けなくてはならないのだから、せめて真面目に式に取り組めと文句を言ってやりたい。
いつまでもしみったれた態度のイーサンに、ソフィアは心の中で溜め息をついた。
――アンタも貴族なら受け入れなさいよね。女々しい男!
ソフィアはそんな気持ちを顔には出さずに目を閉じた。
招待客たちの前で誓いのキスをする。
初めてのキスはもっと幸せな気持ちになれるものだと思っていたソフィアの心の中では、複雑な感情が渦巻いていた。
――駄目よソフィア、こんな暗い気持ちになっては! 私はこれからこの人と家庭を築くのだから。
唇が離れ、ソフィアは目を開けた。
近くにイーサンの顔があった。視線があったソフィアはニコリと微笑む。
その瞬間、イーサンが頬を引きつらせて険しい顔をした。
――何よその顔! 姉さんみたいに美しい顔をしていなくて悪かったわね。さぞかしがっかりしたのでしょうね!
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