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「ルー?」
そう名前を呼ぶと急に明るくなった。
「よかった。まだ電球は生きてるらしい」ルーは棚の上に乗っていた。どうやら電気を点けてくれたのはルーらしい。
「ルー、ここはどこ?」
「きみの家の地下にあるワインセラーさ」
「ワインセラー?」
「すっかり忘れてたよ。きみの父さんも母さんもあまりお酒を飲まないからね」
確かにワインを飲んでる姿は思い出せない。父さんは街中に住んでる時に、時々パブに寄ってビールを飲んで帰ってきたことはあったけど。
「モーリーがちゃんと管理してくれてたみたいだから電気がついてよかった。それに──優秀な〈警察犬〉はもう犯人を捕まえたらしいよ」
部屋の中を見回すとジョンの前脚は“犯人“の尻尾を押さえていた。
「──ネズミ?」そのネズミの周りにはあの包装紙と同じ柄の紙が散乱していた。僕は慌ててジョンのそばに寄って行った。紙を拾ってポケットの包装紙と比べてみる。やはり間違いないみたいだった。
「ネズミがプレゼントを持って行った?」僕は首をかしげた。プレゼントはだいたいおもちゃとか本とか文房具だ。ネズミが欲しがるようには思えなかった。
「だろうね」ルーはそう答えると、棚の上から降りてネズミの前に立った。「クリスマスのプレゼントを悪戯するなんて許すわけにはいかないなあ」そう言って鋭い爪で床を掻いた。
それを見て急にネズミが鳴き出してバタバタと暴れ出した。すると棚のかげから三つの小さな頭が顔を出した。子ネズミだった。
「待って! ルー!」
僕は子ネズミが顔を覗かせた棚の裏を見た。そして無理やり手を突っ込んだ。
「ルー。理由はコレだよ」
そこにあったのはチェシャ猫が描かれたパッケージのチェシャーチーズだった。しかもホールで。僕はこんなプレゼントを選ぶ人を知っている。母さんの弟──つまり僕の叔父さんだ。フィリップ叔父さんは結婚もしてないし、子どももいない。おまけに定職にも就いてない。いつもふらふらと旅してばかりいて、自分が子どもみたいな人だ。こないだまでインドの鉱山を見に行ってそのまま三年ほど帰って来なかった。フィリップ叔父さんはいつもキテレツなプレゼントを贈るので、毎年ダントツで楽しいけど欲しくはないプレゼントの一位だった。
チーズはまだ半分以上は残っていたけれど、ネズミの歯形がしっかりついている。もう食べられたものじゃない。子ネズミは母ネズミを心配そうに見守りながら、ルーに怯えていた。
僕はため息をついた。こんな姿を見たら怒るに怒れないじゃないか。
「ルー。今回は僕が母さんに謝るよ。だからネズミたちは許してあげて」
「エリックは甘ちゃんだなあ」ルーは呆れたようにそう言った。
「仕方ないじゃないか。今日はクリスマスだよ?」僕はそう言って肩をすくめた。そうだ、今日はクリスマスだ。なのに子ネズミを親なし子ネズミにするわけにはいかない。
「だからってここに住んでもらっても困るよ。モーリーはネズミが大嫌いなんだ」
ジョンは押さえていたネズミの尻尾を離した。そして僕のそばで震えていた子ネズミの前にやってきて、ぱくりぱくりと一匹ずつ口の中に入れた。
「ジョ、ジョン!?」僕は慌てて大きな声を上げた。「食べちゃったの!?」
ジョンはそのまま何事もなかったように、扉のほうへ向かって歩き出して行った。
「待って! ジョン! ネズミなんて食べちゃ駄目だって!」僕は慌ててあとを追った。
後ろから「なるほどね」と声がしたが、それを聞いてる場合じゃなかった。
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