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メリダは呆れからか、それとも感心からか、はたまたその両方か分からないため息を吐いた。
「なんというか、流石、レオナルドだね」
「どうも〜」
冷やされたグラスを渡され、俺は起き上がってそれを受け取った。
「ピザを買いに行かなかったら、そもそも財布を忘れなかったら……」
ワインを注ぎながらメリダは笑みを浮かべる。二つのグラスが満たされると、カツンと小さくぶつかった。
「"絶世の金髪"に、Salute.(乾杯)」
「……Salute.そんなおまじないみたいに唱えられても」
とろけるような舌触りの赤ワインは誰がどう見ても高級だと分かる。
「"ギャンブルに行くなら金より幸運を、占いよりもその前髪を。ヴィーナスは絶世の金髪を揺らしている"……詩的だね」
メリダの言葉にポカンと開きそうになった口を急いで閉じて、飛び出しそうになったワインを喉を鳴らして飲み込んだ。
「っ、なに、それ!?」
「あれ、知らないのかい?」
何だよヴィーナスって、と不服そうに漏らす。
「お前のその名前の謳い文句だよ。金と幸せを引きつけるならまずは美しい幸運の女神様を手に入れろ、ということなんだろう」
「なんちゅー傲慢なポエーマだ」
というか、俺の名前ってそんな風に伝来されてたの?
確かに"カネ"と"アドバイス"を置いていくのが俺の仕事ではあるけど、幸運のヴィーナスとまで呼ばれる覚えはない。まったく、誰が言い出したんだか。
「そんなに有難いもんでも何でもないけどね」
それに本当のルーツはそんなに綺麗なものじゃない。メリダは知らないだろうけど。
「まあとにかく、お前が炭にならなくて良かったよ」
ぐいっとグラスを傾け、残りのワインを飲み下したメリダは、タイを緩めながら服のボタンを外していく。
「私はもう今日は休むよ。お前も部屋に戻って寝なさい」 そう言ってバスルームの扉へ消えていった。
俺もグラスに残ったワインを飲み干す。しかし部屋に帰ろうかな、なんて気分になれないのは、やはり相部屋が誰なのか分からないのが不安なのと、もし相手が寝ていたら、起こしてしまったらどうしようという気持ちがあるからなのだろう。
「ん〜どうしよ」
……まだボトルにワインは残っている。酔いがまわればそんな不安もなくなるだろうと、ボトルに手を伸ばした。
とくとくと音を立てて、行儀は悪いがグラスいっぱいにワインを注ぐ。
「ん……うまい」
メリダの選ぶ酒は、経験則というものだろう、どれもハズレがなく美味い。美味いのは美味いのだが、それだけじゃ手持ち無沙汰で、俺はそのまま、しかも靴も履かずにペタペタと部屋の中を歩き回った。
流石、高級ホテルの高級スイート。ロココ調の繊細な装飾の高そうな家具で揃えられている。その中にさりげなく置かれたシンプルな小物類は使い勝手がよく、見た目だけでなく機能性までも充分に整っていた。
マフィアの幹部様ともなると、これが普通になってくるのかな。目に付いたものを手に取っては戻して、それを繰り返してふと目を向けた先の扉が開いていることに気づいた。
恐らくベッドルームだ。完全にメリダのプライベートエリアになるが、酒がほんのりと回り出した頭は、少し覗くだけなら大丈夫だと判断し、ドアノブを掴んだ。
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