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雰囲気は先のリビングルームと変わらない。家具の様式も変わらず美しいロココ調だ。間接照明の柔らかな光はベッドルームに相応しい。
中央を陣取るのはもちろんベッドなのだが、それがめっちゃデカイ!これがクイーンサイズ、いや、キングサイズってやつ?
しかし俺の目はベッドよりも、部屋の奥に向いていた。
「あちゃー……こりゃ悲惨」
シングルのカウチの間のサイドテーブル、そこには書類やら封筒やらが散乱していて、その上をペーパーウエイト替わりの万年筆ケースが置いてある。
書類に至っては床に何枚も落ちちゃってるし、一緒に雪崩てしまったのだろう裸の万年筆と印鑑も転がっていた。
極めつけは飲みかけのコーヒーカップに、メガネのモダンが片足突っ込んでいた。メリダってメガネしてたっけ、という疑問はよそにそれを引っ掴む。
幸い液体には触れていなかったが、何をそんなに焦っていたのか。
「……俺か?」
確かにふらっと居なくなったしケータイも繋がらなかったら焦るけど、俺も大の大人だ。こんなに目に見えるほどうろたえなくてもいいのに。
とは言え、俺のせいでこんなことになったのはなんだか申し訳ない。
「しょうがないなあ、もう」
俺はワイングラスをベッドサイドのテーブルに置いて、散らばった書類やらなんやらを拾い、万年筆と印鑑をケースに戻し、メガネのテンプルも閉じる。
ついでに雑に脱ぎ捨てられていたコートとジャケットをポールハンガー引っ掛ける。俺は満足気に片付いた部屋を眺めて、よし、と一言呟いた。
自分の部屋の片付けなんて滅多にしないのに、他人の、しかもメリダのベッドルームを片付けようなんて。
「コイツのせいかね」
サイドテーブルのワイングラスを手に取り、また一口、二口。
まったく、アルコールってのはたまに変な行動をさせるから怖い。それでも美味いからやめられないのだけれど。
酔いが回ってきたせいか、体が重く感じてきて、近くにあったベッドに腰掛けた。
想像以上に柔らかいスプリングに、撫でるとサラサラと心地いいシルクのシーツ。グラスを手放し横になるまで二秒とかからなかった。
「やわらけえ……気持ちいいな」
頭を預けた枕カバーもシルクで、頬にあたる冷たくて軽やかな感触に目をつぶった。
今日は、なんだか濃い一日だった。
火事で家は燃えるし、組織はなんだか大変だし、耳は怪我するし、幹部になるし……俺が次のカポってなんだよ。
訳わかんねえ、と呟いたそれは言葉になったのかも分からないまま、俺の思考はシャットダウンした。
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