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 小関(しん)は、真面目で素直でかしこい男だ。だから、自分のような人間を軽蔑する気持ちもわからないでもない。小関は優しいから限界なんていう言葉で留まったのだろう。本当は言いたかったはずだ――酒乱で淫乱なお前なんかうんざりだ、と。  篠田はどうやら酒に弱いらしい。自分でらしい、とつけるのは、缶ビール一本で既に意識が混濁してくるから、自分がどのくらい飲んでいるのかがいまいちはっきりしないからだ。そしてどうやら襲い癖があるらしい。困惑顔の小関に跨り、その中心を最奥に銜え込んでいるところで意識が戻ったことも度々だった。だからそうやって、好きな人とセックスをしているというのに、一度もまともに覚えていない。素面で抱き合うには、小関のことが好きすぎて、緊張ばかりが先行して上手くいかない。だけど抱き合いたいという気持ちはあるから、酒に頼るのが一番だと思っていた。仕方ないと思っていた。けれど、その結果がこれだ。 ――情けない。と、思う。  篠田は再び深くため息をついた、その時だった。 「しーのーだーさんっ」  そんな声と共に篠田の左腕に体温が張り付く。篠田は驚いて振り返った。 「ああ……紺野(こんの)さん。脅かさないでよ」 「ぼーっとしてるからですよ。あ、それ昨日のですか?」  白衣に身を包んだ幼い顔の小柄な彼女は、これでも二十五歳で、篠田と一年前からチームを組んでいる。見た目とは違い、気が強くて自己主張をはっきりとするので、篠田が言い負かされることもしばしばだ。その分、互いに何でも言い合い、意見交換できるので、仕事仲間としては最良といえる。 「うん。病院に連絡頼める?」  篠田は結果表を紺野に手渡した。 「はい。ようやくこの人、隔離解除してもらえるんだ」  よかったねぇ、と呟きながら紺野は近くの受話器を取った。  後輩に懐かれるのは嬉しいと思う。会社では、篠田は真面目でそれなりに頼れる中堅社員になっているらしい。おそらく会社の飲み会では、篠田は一滴もアルコールを口にしないからそういう印象になっているのだろう。呑まなければ酔わない。酔わなければ襲ったりしない。こうやって慕ってくる紺野だって、篠田の醜態を目の当たりにすれば触れるどころか寄り付きもしないのだろう。 「あ、篠田さん。今日の予定、聞きました?」  いつの間にか電話を終えていた紺野が仕事の準備を始めながら篠田の背中に話しかける。 「ああ、さっき。午後から忙しくなるよ」 「すっごいショック。午後から営業に青田買いに行こうと思ってたのに」 「青田買い?」 「明日から営業所の新人くんたちが本社研修に入るんですよ。今日の午後挨拶に来るらしくて、チェックに行かなきゃって思ってたんです」 「そりゃ、精力的でいいな」  篠田が笑うと、紺野は少しだけ頬を膨らませる。 「手下……じゃなくて頼れる後輩は多い方がいいですからね」 紺野は笑顔で篠田を見上げると、というわけで仕事早く片付けましょう、と明るく提言した。篠田がそれに頷き、予防衣を身に着け始める。 「動機はどうあれ、仕事を早く片付けるのは悪いことじゃないからな」  その言葉に紺野は大きく頷いた。
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