あなたと忘れられない夜を★

5/6
前へ
/27ページ
次へ
 部屋に戻ると、相変わらず部屋の照明は落ちたままで、露天風呂の方から水音が響くだけだった。着替えて大部屋へ戻ってしまっただろうか。それとも……  嫌な予感がした小関は慌てて露天へ続くドアを開けた。湯船には誰も居らず、ただ小さな楓が一枚、揺蕩っていた。 「……篠田、さん……」  小関はその先に視線を移動させて驚いた。小さな洗い場にあるシャワーを浴衣のまま頭から浴びているのは篠田だった。近づくと、足元が冷たい。篠田の方から流れてくるのは冷水だった。 「篠田さん、何してんですか! ここ外ですよ!」  小関は咄嗟にシャワーを止めると自分の着ていた羽織を篠田の体に掛けた。篠田の全身が小刻みに震えているのがわかる。 「こう、しないと……ダメ、だから……酔いを醒まさなきゃ……小関と、やれない……」  震える真っ青な唇が、一生懸命に言葉を繋ぐ。小関はその姿に、胸が熱くなった。  ――強要されて呑んだ……それも俺のところに早く来るためだった酒を、俺に咎められて、なのにこんなにまでして酒を抜こうとしてくれて…… 「篠田さん……ごめんなさい……俺、勘違いしてたから」 「悪いのは、おれの方だ」 「違います! 俺がちゃんと話聞かなかった……」  小関がそこまで言葉にすると、篠田が豪快なくしゃみをした。外で冷水なんて、真夏でもない限り寒いに決まっている。 「あ、その前に温まらなきゃ、風邪ひきます」  小関はそのくしゃみで思い出したように、篠田を抱え上げ、自分も浴衣のままで露天風呂へと浸かった。お湯の中、ぎゅっと冷め切った篠田の体を抱きしめる。 「……あったかいな、小関の腕の中」 「篠田さんの体が冷えすぎなんです。ほら、指の先まで」  小関は篠田の手に自分の手を重ねて指を絡めた。ひんやりとした篠田の指が徐々に感覚を取り戻して、ゆっくりと絡んでくる。 「まだ寒いですか? 浴衣、脱いだ方がいいかも」 「や、ダメだ!」  小関が篠田の浴衣の帯に手を掛けると、篠田はその手を押し返した。真っ赤になって首を振っているその様子に小関は首を傾げる。 「これ、大分水吸ってるみたいだし、お湯ぬるくなりますよ」 「いい。平気だから」 「……なんか、隠してます?」 「何にも! 全然、まったく」  篠田の慌てぶりに、小関は「ふうん」と流すような返事をして、篠田の唇を自分のそれで塞ぐ。唇の隙間から強引に舌先をねじ込んで濡れた器官を絡めると、次第に篠田の体から力が抜けていくのがわかった。  そこで小関はすかさず篠田の帯を解いた。ふわりと広がる浴衣に気づいて、篠田は抵抗するようにもがいたが、もう遅い。小関は篠田の肌に既に指を滑らせていた。 「……篠田さん、もしかして、これ、隠してたんですか?」  小関は篠田の下半身を下着ごと撫でた。それは既に普段よりも誇張していた。 「だって、おかしいだろ……小関に抱きしめられただけなのに、こんなにして」 「おかしくないです。嬉しいです」  小関は篠田に軽くキスをすると、額同士をつけたまま微笑んだ。 「これ……俺が鎮めていいんですよね?」  その言葉に篠田は真っ赤になって俯くだけだった。  夜が深まるごとに、外気はきんと冷えて湯船の中の熱さを適度に冷ましてくれる。  濡れた浴衣を放り投げて、小関は篠田の腰を深く摺り寄せた。 「あっ……」 「逃げないで。大丈夫ですから」  篠田の反らせた胸に噛み付くように舌を寄せ、突起を愛撫すると、篠田は吐息ともため息ともつかない、妖艶な息を洩らす。甘い色のついた声は、どれも小関を興奮へと駆り立てた。 「こ、ぜき、指……まって……」 「待てません。こんながっつくつもりなかったんだけど……余裕、ないです」  秘所を拓こうとする小関の指を拒んで、篠田は体をくねらせる。石造りの浴槽の壁際に篠田を追い込んで小関は動きを封じた。手荒いとは思うが、小関にも余裕はなかった。 「小関、やぁっ……!」  小関の中指が内壁を擦るたびに、篠田の体は電流が走ったように、小さく戦慄く。小関はそこが篠田のウィークポイントだと知っているが、篠田にとってはもしかしたら初めての体感かもしれない。――もし、今の篠田が素面だったのであれば。 「小関っ、だめ、も……無理っ……」 「いっていいんですよ? 夜は長いんですから……いくらでも、何度だって。あとで布団でもするつもりですし」 「そんな……無理……あ、んっ……んっ―― !」  大きく背をしならせた篠田は、息を詰まらせ、白濁を放った。お湯にそれがじわりと広がっていく。それを見たらきっと篠田が気にしてしまうだろうと思い、小関はキスをしながら、お湯をかきまぜるように篠田の中心を愛撫した。勢いはなくしているものの、少しの刺激でまた火をつけることが出来そうではあった。 「小関……少し、休ませて……」 「もう少し頑張ってください。俺、まだ篠田さんの中に迎えてもらってないですよ?」  最奥に差し入れたままだった、小関の指が内壁に押されるように絞り込まれる。恥ずかしさもあるだろうけれど、小関の言葉に興奮したのも事実だろう。小関は篠田に微笑むと、その体を反転させ、浴槽に寄りかかるように言った。後ろから脚を少し強引に開かせて、その間に入り込む。 「小関、こ、ここで?」 「誰も見えませんよ」 「じゃなくて、声、とか……その、今まではどうにか頑張って小さく、とか思ったけど……」 「俺に挿れられたら、無理ですか?」  小関の問いに、赤く染まった項が頷く。 「だったら我慢しなくていいですよ。いいじゃないですか、知り合いはずっと階下だから聞こえないですし、たとえ誰かが聞いたとしても、それは赤の他人です。ここは、非日常ですよ?」  赤くなった耳たぶを甘く噛んで、小関は囁いた。 「でも……」 「じゃあ、そんなこと考える余裕もない世界にご案内しますよ」
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

677人が本棚に入れています
本棚に追加