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部屋に戻ると、相変わらず部屋の照明は落ちたままで、露天風呂の方から水音が響くだけだった。着替えて大部屋へ戻ってしまっただろうか。それとも……
嫌な予感がした小関は慌てて露天へ続くドアを開けた。湯船には誰も居らず、ただ小さな楓が一枚、揺蕩っていた。
「……篠田、さん……」
小関はその先に視線を移動させて驚いた。小さな洗い場にあるシャワーを浴衣のまま頭から浴びているのは篠田だった。近づくと、足元が冷たい。篠田の方から流れてくるのは冷水だった。
「篠田さん、何してんですか! ここ外ですよ!」
小関は咄嗟にシャワーを止めると自分の着ていた羽織を篠田の体に掛けた。篠田の全身が小刻みに震えているのがわかる。
「こう、しないと……ダメ、だから……酔いを醒まさなきゃ……小関と、やれない……」
震える真っ青な唇が、一生懸命に言葉を繋ぐ。小関はその姿に、胸が熱くなった。
――強要されて呑んだ……それも俺のところに早く来るためだった酒を、俺に咎められて、なのにこんなにまでして酒を抜こうとしてくれて……
「篠田さん……ごめんなさい……俺、勘違いしてたから」
「悪いのは、おれの方だ」
「違います! 俺がちゃんと話聞かなかった……」
小関がそこまで言葉にすると、篠田が豪快なくしゃみをした。外で冷水なんて、真夏でもない限り寒いに決まっている。
「あ、その前に温まらなきゃ、風邪ひきます」
小関はそのくしゃみで思い出したように、篠田を抱え上げ、自分も浴衣のままで露天風呂へと浸かった。お湯の中、ぎゅっと冷め切った篠田の体を抱きしめる。
「……あったかいな、小関の腕の中」
「篠田さんの体が冷えすぎなんです。ほら、指の先まで」
小関は篠田の手に自分の手を重ねて指を絡めた。ひんやりとした篠田の指が徐々に感覚を取り戻して、ゆっくりと絡んでくる。
「まだ寒いですか? 浴衣、脱いだ方がいいかも」
「や、ダメだ!」
小関が篠田の浴衣の帯に手を掛けると、篠田はその手を押し返した。真っ赤になって首を振っているその様子に小関は首を傾げる。
「これ、大分水吸ってるみたいだし、お湯ぬるくなりますよ」
「いい。平気だから」
「……なんか、隠してます?」
「何にも! 全然、まったく」
篠田の慌てぶりに、小関は「ふうん」と流すような返事をして、篠田の唇を自分のそれで塞ぐ。唇の隙間から強引に舌先をねじ込んで濡れた器官を絡めると、次第に篠田の体から力が抜けていくのがわかった。
そこで小関はすかさず篠田の帯を解いた。ふわりと広がる浴衣に気づいて、篠田は抵抗するようにもがいたが、もう遅い。小関は篠田の肌に既に指を滑らせていた。
「……篠田さん、もしかして、これ、隠してたんですか?」
小関は篠田の下半身を下着ごと撫でた。それは既に普段よりも誇張していた。
「だって、おかしいだろ……小関に抱きしめられただけなのに、こんなにして」
「おかしくないです。嬉しいです」
小関は篠田に軽くキスをすると、額同士をつけたまま微笑んだ。
「これ……俺が鎮めていいんですよね?」
その言葉に篠田は真っ赤になって俯くだけだった。
夜が深まるごとに、外気はきんと冷えて湯船の中の熱さを適度に冷ましてくれる。
濡れた浴衣を放り投げて、小関は篠田の腰を深く摺り寄せた。
「あっ……」
「逃げないで。大丈夫ですから」
篠田の反らせた胸に噛み付くように舌を寄せ、突起を愛撫すると、篠田は吐息ともため息ともつかない、妖艶な息を洩らす。甘い色のついた声は、どれも小関を興奮へと駆り立てた。
「こ、ぜき、指……まって……」
「待てません。こんながっつくつもりなかったんだけど……余裕、ないです」
秘所を拓こうとする小関の指を拒んで、篠田は体をくねらせる。石造りの浴槽の壁際に篠田を追い込んで小関は動きを封じた。手荒いとは思うが、小関にも余裕はなかった。
「小関、やぁっ……!」
小関の中指が内壁を擦るたびに、篠田の体は電流が走ったように、小さく戦慄く。小関はそこが篠田のウィークポイントだと知っているが、篠田にとってはもしかしたら初めての体感かもしれない。――もし、今の篠田が素面だったのであれば。
「小関っ、だめ、も……無理っ……」
「いっていいんですよ? 夜は長いんですから……いくらでも、何度だって。あとで布団でもするつもりですし」
「そんな……無理……あ、んっ……んっ―― !」
大きく背をしならせた篠田は、息を詰まらせ、白濁を放った。お湯にそれがじわりと広がっていく。それを見たらきっと篠田が気にしてしまうだろうと思い、小関はキスをしながら、お湯をかきまぜるように篠田の中心を愛撫した。勢いはなくしているものの、少しの刺激でまた火をつけることが出来そうではあった。
「小関……少し、休ませて……」
「もう少し頑張ってください。俺、まだ篠田さんの中に迎えてもらってないですよ?」
最奥に差し入れたままだった、小関の指が内壁に押されるように絞り込まれる。恥ずかしさもあるだろうけれど、小関の言葉に興奮したのも事実だろう。小関は篠田に微笑むと、その体を反転させ、浴槽に寄りかかるように言った。後ろから脚を少し強引に開かせて、その間に入り込む。
「小関、こ、ここで?」
「誰も見えませんよ」
「じゃなくて、声、とか……その、今まではどうにか頑張って小さく、とか思ったけど……」
「俺に挿れられたら、無理ですか?」
小関の問いに、赤く染まった項が頷く。
「だったら我慢しなくていいですよ。いいじゃないですか、知り合いはずっと階下だから聞こえないですし、たとえ誰かが聞いたとしても、それは赤の他人です。ここは、非日常ですよ?」
赤くなった耳たぶを甘く噛んで、小関は囁いた。
「でも……」
「じゃあ、そんなこと考える余裕もない世界にご案内しますよ」
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