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かく言う僕も、酔いが回ってきた。
安物のウィスキーはやはり悪酔いする。
今夜の僕はどうやら地獄行きのようだ。
たまらず、カウンターにいるバーのスタッフに声を掛け、チェイサーにするソーダ水を頼む。
「ま、生きているうちに楽しくやろうぜ、クラモト君!」
「君の場合は、酒を飲んでいるときだけだろ、楽しいのは?」
するとオヤジは、僕の目をジッと見据えた。
それから、長いため息のあとに「違いねえ」と吐き出すように言った。
「でも、いいかー、クラモト」
「ん?」
「天国なんてどこにもねえんだよ。ここで見つけるしかねえ」
「ここ? バーか?」
「お? クラモト、おもしれえこと言うな」
そういうとオヤジは、汗でてかった顔にクタクタの笑みを浮かべた。
「ヒヒヒ、おいらは、そんな話してんじゃねえよ。お前こそ、ばーか」
「……ぐっ」その刹那、僕の胸を突き上げたのは苛立ちか、あるいは胃液か。とにかくそいつを一心に飲み込む。
オヤジは酒の肴に、僕を教授しようとしているようだが、酒が入ると僕も頑固で短気になる。それに、そういう彼の鼻につく態度を看過できるほど、僕は聖人ではない。
僕は自分のスマホを手にした。
「馬鹿と言いたいなら、こいつに向かって言え」
画面を彼に向けた。
「あん?」オヤジは、酔いの回ったトロンとした目つきでのぞき込んだが、やがてスマホ越しに僕の顔をまじまじと見た。
スマホはカメラ機能をオンにして、自撮りモードにしてあった。つまり、その画面には彼の顔が映っているのである。
押し黙った彼に、僕は被せた。
「人に馬鹿と言った奴もまた馬鹿なんだぜ?」
「……違いねえ」オヤジは眉間にしわを寄せると、そうつぶやいた。
ここで僕は、反転攻勢に出る。
「そういえば、あの女とはどうなったんだ?」
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