たぶん、へヴン

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「お、お、おう。初村さー」 僕は思わず天を仰いだ。彼女は、せめて電話に出ないでいてくれた方が良かったかもしれない。 同窓会の相談の世話役か何かの連絡が回ってきたとでも思ったのだろうか。 「いや、大した用じゃないんだけどさ」 僕は目をしかめ、首を傾げた。 「ハアハア、初村さー、あのさー、良ければ、おいらとさー、ハアハア」 酔いと興奮のせいか、彼の息がだんだん荒くなってきている。 傍目にも不審極まりない。 「ハアハア、付き合って欲しいんだよね」 彼は声がうわずっていたものの、そこまで言い切った。それに対しヒロエは、オヤジに何らかの返事をしているはずだ。僕は、オヤジの次の台詞を、固唾を飲んで待った。 「あ、いや……買い物とかじゃなくてね」 どうやら彼女は、とぼけたようだ。 「その、つまり、あの……ハアハア」 もう見ていられない。 僕はそっぽを向いて右肘をつき、その手で目を覆ってうつむく。 「好きです!」 そのオヤジの台詞に、僕は深く長いため息をついた。 単にそれだけで思いが通じるのなら、たとえば、世界に戦争はない。 やはり断られたのだろう。 それから間もなくしてオヤジは、黙ってスマホをテーブルに置いた。 彼は引きつらせていた目を、床に落とした。 それから、いきなり大声を出す。 「もう死んでやる! チクショー! 地獄に落とされた気分だ!」 たった1時間のあいだに、天国から地獄へと実にせわしい。 「おいら、初村のために死ぬ!」
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