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新しい暮らし
今まではお店で食べていた朝食を、これからは家で食べることになった。ただエメは朝が早いので作り置きをしておくことになった。
寝ていていいと言っているのだが見送りをやめることはなかった。
「ライナー先生、保護施設へは俺が挨拶に行くね」
「悪いな。そうしてくれ」
ふたりのことを任されたのは自分なのだから。仕事が終わったら一緒に施設へ行こうと思っていた。
「それじゃ、行ってきます」
手を振って家を出ようとしたのだが、
「待った」
と呼び止められた。
「ライナー先生、どうしたの?」
「いってきますのキスが欲しい」
今までそんなことを言ったことがないのに。突然のことに困惑し、
「ライナー先生、本気で言っているの!?」
と大きな声が出てしまい慌てて口を押えた。
「あぁ。エメが小さい時にしてくれただろう。いってらっしゃいの言葉とともに」
あれはまだライナーに家族のような思いを抱いていたころだ。
お仕事頑張って。その気持ちとともに行ってらっしゃいのキスをした。
「やだよ。はずかしい」
今はその理由が違ってしまうから。
「そうか、嫌か」
悲しそうな顔で悪かったと頭をなでられ、やはりライナーの中では自分は子供でしかないのだと思わされた。
「ライナー先生が嫌なんじゃなくて、俺、ちいさな子じゃないから」
気持ちが落ち込み尻尾がたれさがる。朝からこんな気持ちにさせられるなんて。やはり同棲は出来ないと断るべきだろう。
「ライナー先生、あのさ」
「俺は、今、ここにいるエメにキスしてほしい」
エメの言葉を言葉で遮り、 とんと再び自分の唇へ指で触れる。
今の自分を求めている。落ち込んだ気持ちが急上昇し尻尾も元気を取り戻した。
なんて単純。ライナーの言葉一つで浮いたり沈んだりと簡単にしてしまうのだから。
「わかった」
ちゅっと軽く触れるくらいのキスをすると、こそばゆくて顔を真っ赤にして手で覆った。
「元気が出た。今日も仕事を頑張るか」
子供の頃もそういって喜んでくれたのを思い出して、 照れはあるが嬉しい方が勝った。
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