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初めての力比べ3
女子の時と同じく近くにいる審判が試合開始の号令をかける。
「お前みたいなのはルフォンにふさわしくないんだよ、オラァ!」
開始の号令とともに一直線に駆け寄ってきて大振りの剣を真っ直ぐに振り下ろす。
そんな馬鹿みたいな攻め方当たるはずもない。
「おりゃりゃりゃ!」
膂力に任せて振り回すも余裕で回避していく。
あんまり回避ばかりではつまらないのでそろそろ反撃に出るとしよう。
リュードも相手も武器は剣。どちらもやや大振りの剣を使っているが体格は2つ上の相手の方が体格が良いのでリュードの方が大きい剣をもっているように見える。
同じほどの大きな剣を扱ってはいるが扱い方は異なっている。
基本竜人の剣はガンガンと押していくタイプ。
かなり荒削りで雑もいいとこだが相手がその点基礎は一応押さえて剣を振るっている。
それに対してリュードの剣は冒険者であり人狼族でもある師匠ウォーケックから習った剣である。
竜人族の剣を剛剣というならウォーケックの剣は柔剣とでも言ったらいいのだろうか、受け流しや回避を主体として相手の隙を誘ったり疲弊させるやり方である。
相手の呼吸をしっかりと読むことも大事な戦い方であり、本気の師匠を相手にすると攻撃は受け流され回避され、防御も力で受けるのではなく柔らかく威力を殺すように受ける。
未熟な子供のころは空気を相手に戦っているような印象すら持った。
力を誇示するような竜人族の戦い方とは違っていてリュードは割とウォーケックの戦い方が好きである。
もちろん力強く戦う竜人族の戦い方も嫌いではない。
相手の剣の軌道を変え受け流す、回避する。反撃も少しずつ加え始める。
力比べは何も降参しなければ終わりというものでもない。長い歴史の中で少しずつ変化していき、今では降参の他に4人の審判によって勝敗が判定される。
致命的な一撃をしっかりと与える、致命的な一撃になりそうな寸止め、累積で見て致命的になりそうなど4人全員が一致してどちらか紅白の札を上げれば上がった札の方が勝利になる。
リュードは白側になるがまだ札は誰も上げていない。
それもそのはずで反撃も致命的な一撃にならないようギリギリでかわさせて軽く当てているからだ。
軽いといっても金属の剣が体に当たれば痛い。掠れば皮膚に赤い跡が残り痛々しい。
もうすでに相手には疲労の色が表れているし後一歩攻め立てればリュードが勝てる。
見る人が見れは実力差は歴然としている。
しかしリュードもまだまだ見極めが甘い。
少し当てる程度にしようと思った胴への突きを相手はかわしきれず、しっかりヒットしてしまった。
疲れからか動きが鈍ってきていたのをうまく考慮できなかったのである。
痛みに相手の顔が歪み、白札が2つ上がる。
もうそろそろ終わりの時が近い。
それなりに鬱憤も晴らしたしこれだけ実力を見せつければ今度舐めた真似もしないはず。
「くそっ、くそっ! ツノありのくせに!」
相変わらずの減らず口を叩き、白札が上がったことに焦ったのかこの試合で1番の大振りで剣を振り下ろす。
それじゃダメだといい加減学んで欲しいものだが、これはチャンスだと決めにかかる。
さらにもう1つ力の差ってやつを見せてやることにした。
しっかりと地面に足をつけ体ごとねじるように剣を振り上げて相手の剣にあえてめがけると金属のぶつかる甲高い音がして相手は再び剣を振り上げるような格好になった。
まさしく力の差。
先祖返りしたリュードの体は普通の竜人族よりも強い。
それに他の子供が遊んでいる間リュードは体を鍛えてきた。
軸もぶれている、勢いに任せて力の乗り切らない剣がリュードの相手になるわけもない。
完全に力負けした相手は下から腕を跳ね上げられて無防備な姿をさらけ出す。
「終わりだ!」
下から振り上げた剣を引き戻しがてら一回転しながら思いっきり胴を薙ぐ。
丈夫な竜人族でも骨ぐらいはいったかもしれない鈍い音をさせて相手は地面を転がるようにぶっ飛んだ。
白目をむいて気絶する姿を見るまでもなく白札が4つ上がって主審が俺の勝利を宣告する。
起きていたら間違いなく痛みに悶えたはずだから気絶できて彼は幸運だっただろうな。
これで自分はともかくルフォンに絡むのはやめてほしいものだと思う。
「リューちゃんすごい!」
「おっと」
次の出場者と入れ替わりに柵の外に出るとルフォンが満面の笑みで抱きついてくる。
柵の出入り口周辺は関係者しか立ち入れないのだけれどルフォンも一応出場者なので関係者といえるし、みな顔見知りのようなものでセキュリティなんてものもない。
要するに入り放題。それにルフォンにうるんだ瞳で見られて止められるやつも少ない。
なのでルフォンはリュードを出迎えるために待っていてくれた。
冷たい視線やら生暖かい視線が向けられて気恥ずかしい気持ちになるけど嬉しい気持ちの方が大きくしっかりとルフォンを受け止める。
普段からいじめてくる相手だったからルフォンも心配だったのかもしれない。
「……ッ!」
ルフォンを撫で回して試合の疲れを癒していると殺気を感じた。
顔を上げると次に戦う予定の15歳の人狼族の青年がこちらを刺すような鋭い視線で睨みつけている。
力比べに出るみんなの控え場のピリピリした雰囲気の中でイチャイチャするようなことをしていれば不愉快にも思って当然。
しかも次の対戦相手がそうしてるとあれば殺気立ちもするか……。
少し反省したリュードはルフォンに観客席の方に戻るように言って試合に備える。
逆の山ではそうしている間にも15歳の竜人族が決勝進出を決め、準決勝戦にリュードと15歳の人狼族が呼ばれた。
今度はリュードが赤側で相手の人狼族の青年が白側となる。
両手に1本ずつナイフを持つ人狼族の青年の目つきは相変わらず厳しい。
「おい、お前……シューナリュードとかいったか」
「そうだけど」
「お前、るる、ルフォン……ちゃ、さんと付き合っているというのは本当なのか」
「ルフォン? 付き合ってはないけど……」
ルフォンとは正確には付き合ってない。
友達以上恋人未満みたいな感じといえばいいのかな。
かなり親しく家族のような関係性ですらある。
……なるほど理解した。
あの刺すような視線の理由はイチャイチャしていることが原因ではなかった……イチャイチャが原因なんだけどルフォンとそう見えることをしていたことが大きい。
相変わらずルフォンは男子人気が高い。強者主義な村において家庭的な側面を持ち他の女子に比べて気が強すぎないルフォンはまた違った魅力を持っている。
「付き合ってないのにルフォンちゃんの頭を撫でていたのか、この不埒者め!」
リュードの答えを聞いて一瞬安心したような表情を見せたがすぐに顔が険しくなる。
頭を撫でるぐらい子供の頃からやっているしルフォンだって嫌がっていないのだから素知らぬ他人に不埒と非難されるいわれもない。
「家が近いからといってルフォンちゃんに手を出すお前を俺は許さない!」
ちなみにルフォン本人に自覚はないけど人狼族のみならず竜人族にも人気がある。
幼馴染として仲良くしているリュードをよく思っていない奴がいるのは何となくわかっていたけど真正面切ってこんな風に言われたのはこれが初めてである。
「始め!」
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